食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

無洗米の製造方法をめぐる戦い1 東洋精米「洗い米特許」

無洗米に関する特許を3回にわたって紹介します。無洗米の製造装置を販売する競合2社:東洋精米サタケの争いを追っていきます。

無洗米はご存知の通り、研がずに炊けるお米です。精白米の表面に残った糠をあらかじめ除去しているので、水洗いなしで研いだのと同等のご飯を炊くことができます。無洗米の発想自体は少なくとも戦前からあったそうで起源は不明です。ですが、技術が未熟でぬかを除去しきれなかったことなどから無洗米は普及しませんでした。

 

1970年代にサタケは無洗米の製造装置開発に他社に先駆けて挑みました。通常の精米では、白米表面に付着した糠の層(肌糠)を除去できません。そのため炊飯前に水洗いして取り除いています。サタケは水を加えて洗う工程をあらかじめ精米時に施すことで、品質の良い無洗米を作ることを検討しました。そして、少量の水で肌糠を柔らかくふやかして、ふやかした糠を水で除去する方法(SJR方式)、タピオカ澱粉で除去する方法(NTWP方式第3回で解説します)を確立しました。

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そんな中、精米機業界の競合メーカー東洋精米も1980年代に無洗米製造装置の開発に乗り出します。そして、サタケが取り組んできた水を使って糠を取り除く方法に関する特許を出願しました。その1つが今回紹介する通称「洗い米特許」です。

特許の及ぶ範囲を示す請求項は次の通りです。

洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された、平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米。

この特許を含む複数の特許が成立し、加水式のする無洗米の製造方法を広くカバーする強力な特許となりました。東洋精米の特許戦略の見事さに感心します。

 

東洋精米の「洗い米特許」に対し、サタケは黙っていませんでした。特許の無効を申し立てる訴訟を起こしたのです。この争いは7年にもわたりました。そして、ついにサタケ側が勝利し「洗い米特許」を含む3件の特許が無効となりました。この件に関してはサタケの当時のニュースリリースが公開されています。ニュースリリースに「!」を使うほどの喜びようです。いかに洗い米特許がサタケの事業の妨げになっていたかがわかります。

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特許制度は、発明者が利益を得られるようにする制度です。利益こそが発明をしたいと思う動機となり、技術の発展を促します。ですので、多くの利益が得られるように文書を作って特許出願するのは当然です。一方で、特許庁の審査官は、発明の新規性・進歩性を審査して、適切な権利範囲を判断します。出願する側、審査する側ともに人間ですので、どうしても主観が入り込みます。そのため「洗い米特許」のように一度成立して後から無効になる、ということが起こりえます。

むしろ裁判で争えば無効になる可能性があるが手間やコストを考慮して争わないでおく場合の方が多い、というのが現場の実感です。これは特許制度の宿命と言えます。

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ところで、「洗い米特許」で敗れた東洋精米はどうしたのでしょうか?次の一手はこれまた見事です。これは次回紹介します。

 

【特許番号】

P2615314

【名称】

洗い米及びその包装方法

【特許権者】

株式会社 東洋精米機製作所

【課題】

水洗、除水後も米粒に亀裂が入らず、しかも、炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得る

【請求項】

洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された、平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米。