食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

秋田県立大学 レタスのカリウム含量を減らす栽培法

カリウム含量を低減した野菜を栽培する為の肥料と栽培方法についての特許です。

現在、日本には人工透析を必要とする腎臓病患者が約30万人います。高齢化の進行などに伴い、患者数は今後も増加の見込みです。あるいは人工透析をしていなくても、症状が重篤にならないよう食事療法を行っている人もいます。腎臓病の食事療法というのは、摂取するタンパク質やナトリウム、カリウム量を制限することで腎臓にかかる負担を減らして重症化を防ぐ、というものです。好きなものが食べられない、大変な苦労を伴うことが想像できます。

カリウム含有量の多い食品として葉物野菜が挙げられます。そのため、食事療法中の腎臓病患者は、サラダなどをたくさん食べることができません。

ところで、葉物野菜にカリウムが多いのはなぜでしょうか?それは肥料や土壌からカリウムを吸収して蓄積するからです。ならば、カリウムを与えなければカリウム含量が低い野菜が作りだせるのでしょうか?

実はそう簡単な話ではありません。

作物の生育にとって重要な肥料の3要素は「リン、窒素、カリウム」であると言われます。カリウムが不足すれば、植物は生育できないのです。カリウムを与えずに野菜を作る、など常識的に言って考えられません。

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しかし、発明者はカリウム含有量が低減された葉物野菜を栽培する方法を検討しました。常識への挑戦です。

まず、土壌や地下水にはカリウムが含まれるので、栽培方法として水耕栽培を選択しています。最近流行りの「植物工場」を想定しているわけです。

その上で、栽培期間を前半と後半に分けます。

前半にはカリウムを含む通常の肥料を与えて成長させます。

後半はカリウムを含まない肥料を与えます。ただカリウムを抜いただけでは成長できず枯れてしまうので、代わりにマグネシウムを与えます。すると、成長を止まらないことを見出しました。そして、成長に伴ってカリウム含量が低下することがわかりました。

この特許の方法を利用して、複数の企業ががいわゆる「植物工場」で低カリウムのレタスなどを生産し、販売しているようです。

「植物の成長にはカリウムが必要」というのは小学生の教科書にも乗るような一般常識です。この特許の成果は、常識を打ち破って、実際に商品化につなげた素晴らしい仕事です。

「常識を疑え」と口で言うのは簡単です。しかし、実際に仕事をしていると、数多の常識や先人の知見を生かさなければ仕事は進められません。いちいち疑っていると効率が悪すぎます。その中で「疑うべき常識」を見つける必要があります。そのためには科学的な思考力はもちろん、常識を打ち破った先にどのようなニーズを創出できるかを描く力が求められるのではないでしょうか? 

研究と商品を結び付けるうえで、大いに参考にしたいなぁと思う次第です。

【特許番号】

P5300993

【名称】

カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法

特許権者】

公立大学法人秋田県立大学

トックベアリング株式会社

【課題】

ナトリウムの含有量が増えるのを抑えながら、カリウムの含有量も少なくして、腎臓病患者でも安心して食することができる低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法を提供することである

【請求項1】

実質的にカリウム及びナトリウムを配合せず、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とし、これら主成分を水に溶かしたときのpH値が5~9になる低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料。

【請求項2】

上記主成分のうちのマグネシウムの含有割合は、その下限値を5重量%とした請求項1記載の低カリウム野菜を栽培するための請求項1記載の水耕栽培用肥料。

【請求項3】

栽培する野菜に応じて種まきから収穫までの期間をあらかじめ設定し、収穫から遡った所定の期間を最終栽培期とし、この最終栽培期の前の期間を初期栽培期とし、上記最終栽培期は、上記請求項1又は2記載の水耕栽培用肥料を用い、上記初期栽培期は、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とする肥料を用いる低カリウム野菜の水耕栽培方法。