雪印メグミルク「こんがり焼けるとろけるスライス」は何故こんがり焼けるのか?
「雪印こんがり焼けるとろけるスライス」の公開特許公報について紹介します。この商品は、短時間で焦げ目がついてこんがり焼けるスライスチーズです。
この商品がなぜ短時間でこんがり焼けるのでしょうか?
スライスチーズをパンに乗せてオーブントースターで焼くと、普通はパンがきつね色に焼けてもチーズは白いままです。では、どうすれば「短時間で焦げ目がつくチーズ」を造ることができるのでしょうか?
理屈はわりと単純です。焦げ易い素材を使えばいいのです。
焦げ易くしたい場合、食品の技術に関わる人なら真っ先に「メイラード反応」「カラメル化反応」を思いうかべることでしょう。そして「糖類かアミノ酸だな」と考えるはずです。原価を考慮すれば「糖類を真っ先に検討!」となるでしょう。あとは焦げ易くする対象がなんなのか次第で選択肢が絞られます。
「雪印こんがり焼けるとろけるスライス」の原材料表示は次の通りです。
ナチュラルチーズ、ホエイパウダー(乳製品)、食塩、乳化剤、安定剤(増粘多糖類)、調味料(アミノ酸等)
比較として、こんがり焼けない方の「とろけるスライス」の原材料表示は次の通りです。
ナチュラルチーズ、乳化剤、安定剤(増粘多糖類)、調味料(アミノ酸等)
前者にはホエイパウダーと食塩が使われている、という違いがあります。食塩はナチュラルチーズからの持ち込みもありますし、焦げにはほとんど影響しないので無視していいでしょう。よって、焦げ易くするためにホエイパウダーを使っている、ということがわかります。
ホエイパウダーとは、ホエイ(ホエー、乳清とも呼ぶ)を乾燥させた粉末です。ホエイはチーズや生クリームを作る過程で生じる透明の汁です。ホエイの主成分は乳糖なので、乳糖の焦げ易い性質を利用してチーズをこんがり焼けるようにしているわけです。
焦げ易い様々な素材の中からホエイを選んだ理由として、次の点が推測できます。
- ホエイは乳製品であり、チーズと風味の相性が良い。
- ホエイパウダーは比較的安価である。
- 雪印は自社でホエイパウダーを製造しており調達面で都合が良い。
特許は、乳糖やホエイパウダーという限定はせず「糖類」という広い範囲で申請されています。
この特許は申請、公開されているだけで未だ成立していませんので、どのような範囲で認められるかは不明です。
余談ですがホエイプロテインはホエイから乳糖や塩類を除去したものです。 ホエイプロテインの製造の余剰物として乳糖が製造されます。
技術的に面白いのは、糖類の添加方法です。
糖類はチーズに混ぜ込んでもいいし、表面に塗布してもよいと述べられています。
文献では、チーズ表面に直接塗布するのではなく、チーズを包むフィルムに糖類を塗布してからチーズを包装する方法が記載されています。おそらくこの方法で製造しているのでしょう。読んで真っ先に「なるほど」と感心してしまいました。
- 作業効率:フィルムに一塗りでチーズの両面に糖類を塗布できる。
- 衛生性:柔らかく水溶性成分を含むチーズに直接触れないので、塗布装置が汚れない。
といったように、フィルムに塗布する方法の利点が容易に想像できるからです。この考え方は応用範囲が広い気がしますので、覚えておきたいものです。
スライスチーズをパンに乗せて焼くと、普通はパンがきつね色でチーズは白いままです。これを「あたりまえ」と、あまりにも日常的な光景なので見過ごしてしまいがちです。「チーズもこんがり焼き色が付いたらいいのに」って考えたとしてもそれだけでは商品は造れません。商品開発の視点で他の案件と比較し「こんがり焼けるチーズを売ろう!」を選んでいるのです。そして見事にヒットさせました。すごいことです。
この商品のヒットを受けて、さっそく小岩井乳業が「こんがり焼けるチーズ」という商品を発売しました。
今後も乳業各社はチーズに様々な付加価値を付けることを狙うことでしょう。注目しです。
【公開番号】
特開2013-158278
【名称】
プロセスチーズ類及びその製造方法
【特許権者】
雪印メグミルク株式会社
【課題】
より簡便に製造することが可能な短時間の加熱処理で良好な焼き目を呈するプロセスチーズ類及びその製造方法の提供する
【請求項1】 糖類を0.1~5.0重量%含有し、加熱調理により少なくとも一部又は全部に焼き目を呈することを特徴とするプロセスチーズ類。
【請求項2】 表面に糖類を付着させることを特徴とする加熱調理により少なくとも一部又は全部に焼き目を呈することを特徴とするプロセスチーズ類。
【請求項3】 前記表面に糖類を付着させる方法が、チーズとの接触面に糖類を付着させた包装フィルムによってチーズを密着包装することである請求項2記載のプロセスチーズ類。
【請求項4】 前記加熱調理が、1000Wの電子レンジによる3分間の加熱であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項5】 前記糖類が、ラクトース、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、アミノ糖又は糖誘導体から選択されるいずれか1以上である請求項1~3のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項6】 原料ナチュラルチーズ類の熟度指標が10以上30以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項7】 ホエータンパク質を0.2%以上含有することを特徴とする請求項1記載のプロセスチーズ類。
【請求項8】 前記プロセスチーズ類がスライス形状で有ることを特徴とする請求項1記載のプロセスチーズ類。
【請求項9】 前記加熱調理による焼き目が、チーズ表面の50%以上に生じることを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載のプロセスチーズ類
【請求項10】 熟度指標30以下に調製した原料ナチュラルチーズに、溶融塩を0.1~3.0重量%添加し、乳糖含量を0.1~5.0重量%となるよう調製した後、加熱乳化し、冷却して得られることを特徴とする請求項1記載のプロセスチーズ類。