食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

ポッカ 缶入りコーンスープの風味劣化を抑える

ポッカの缶入りコーンスープに関する特許です。

一般のお客様は、加工食品を「長期保存しても味が変わらないもの」と思うことが多いようです。

しかし実際には、作りたてと賞味期限ぎりぎりではかなり味が異なります。

例えば戸棚の奥でストックしておいたカップ麺と、スーパーで買ってきたばかりのカップ麺は味が違います。とはいえ比べるような場面はフツーはありませんので、なかなか気付かれない事実です。

ただし、食品によっては保存中に味が落ちることが認識されています。

代表的なものはビールです。これを知らしめたのはアサヒビールです。

アサヒビールは造りたてのビールを供給する体制を整えたうえで「できたてのうまさ」を訴求しました。

私は5年間も常温保存したスーパードライを飲んだことがありますが、色がすっかり変わって黒ビールのようになっていました。

5年はやり過ぎですが、数日、数週間でも加工食品の風味は変化していくのです。

 グアイアコールの構造式

常温で長期保存できる食品について言うと、食品の風味を変える代表的な要因は次の通りです。

  • メイラード反応
  • 酸化反応
  • 発酵*1

要因は複数ありますが、どの要因も保存温度が高いと促進されます。

だからこそパッケージに「涼しいところで保管してください」などと書かれているわけです。

ここで缶入りのコーンスープについて考えます。

コーンスープは自販機やコンビニなどのホットベンダーで提供されます。つまり販売直前の保存温度は約60℃です。

化学反応は温度が10℃上がると、速度が2倍になると言われます。*2

日本の年間平均気温は15~20℃です。ホットベンダーで保存した場合、風味の変化の速度は2の4乗=16倍になるわけです。

ですから、ホットベンダーでの保存中の変化への対策が必要です。

 

この特許の発明者は、酸化反応に注目しました。

食品の風味変化を抑える場合、食品から酸素を追い出すというのは定石です。

(代表的なのは「明治おいしい牛乳」の製造方法です。)

製造のどの工程で、どのように、酸素を追い出すかの選択は、製造コストなどに効いてきます。

発明者は、均質化(ホモゲナイズ)工程で酸化が起こりやすいことを見出しました。そして、均質化工程にかける前のスープに窒素ガスを吹き込むことで溶け込んでいる酸素を追い出しました。すると、低コストで均質化工程での酸化を抑えることができたそうです。

その結果、製造工程での酸化を抑えることで、酸化で生じたラジカルを減らし、ホットベンダーでの風味劣化を抑えることができました。

 

世の中にはこの特許技術のように、食品の風味劣化を防ぐ技術がさまざま使われています。その多くは各社独自の秘密のノウハウになっています。

この特許を読む限り、特許取らないで秘密にしておいた方がいいのでは?と感じます。

他社がこの特許技術を使ったとしても、ポッカがその他社製品にポッカの特許技術が使われているか判別しづらいからです。

特許侵害が証明できなければ、他社による侵害をやめさせる方法はありません。

逆に解釈すると「この程度の技術は知られてもいい」とポッカが考えている可能性もありますが。。

 

【特許番号】

P4644396

【名称】

均質化工程を有する液体食品の製造方法

特許権者】

株式会社ポッカコーポレーション

【技術分野】

液体食品の製造に関するものであり、更に詳細には、均質化工程を有する液体食品の製造において、長期間に亘って高品質を維持する液体食品の特に工業的にすぐれた効率的製造に関する

【請求項】

原料を水に溶解させ調合タンクで調製した後、均質機により均質化する工程の前を、特異的に、内容液の溶存酸素量を5ppm以下に低減せしめて、均質機により20~300kg/cm2の圧力で且つ50~70℃で均質化処理し、レトルト殺菌すること、を特徴とする、乳製品、糖類、澱粉類を含有しレトルト殺菌工程を有する液体食品の製造工程及び/又は加温保管時及び/又は長期間保存時の、ショ糖の分解及び/又はアミノ酸の変化・劣化を抑制し品質を維持する方法。

*1:ここでは食中毒の原因にはならない微生物の増殖も、広い意味で発酵としました。例えば、果実飲料などでバニリンからグアイヤコールが産生するといったものも含めています。

*2:あくまで一般論で例外だらけの経験則です。10倍以上になることも。

大塚食品 スゴイダイズのスゴイ技術

大塚食品の大豆飲料「スゴイダイズ」についての特許です。

スゴイダイズを初めて飲んだ時の驚きは今でも覚えています。

大豆の風味がやたら強く、粘性がドロッとして濃いからです。他の豆乳とは明らかに違います。

品質で明らかに差別化されたスゴイダイズは、イソフラボンブームに乗って大ヒットしました。

ですが、市場に類似商品はありません。真似できない技術によるものと推察されます。

では、どのような技術が使われているのでしょうか?

 

まず、スゴイダイズは「大豆飲料」であって「豆乳」ではないのです。

日本農林規格による豆乳の定義は次の通りです。

大豆(粉末状のもの及び脱脂したものを除く。以下同じ。)から熱水等によりたん白質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた乳状の飲料(以下「大豆豆乳液」という。)であつて大豆固形分が8%以上のものをいう。

要するに、大豆の粉砕液(呉汁)からおからを取り除いたものが豆乳なのです。

 

特許文献によると、スゴイダイズは通常の豆乳と製法が全く異なります。

通常の豆乳の製造工程は次の通りです。

  1. 大豆に水を加えて浸漬する。
  2. 水の浸み込んだ大豆を粉砕して呉汁をつくる。
  3. 呉汁から繊維質(おから)を濾して取り除く。

 

これに対し、スゴイダイズの製造工程は次の通りです。

  1. 水に浸漬していない大豆を粉砕して、微粉末にする。
  2. 微粉末に水を加えて均質化する。

 

スゴイダイズはすごく細かく粉砕されたおからが入った呉汁、ということになります。

大豆を粉にして水に溶く、というと単純な発想にも思えますが、技術的には難しい部分を含んでいます。

プロピオンアルデヒド2p0m.gif

この特許のキモですが、粉砕する前の大豆を適度な温度の加熱水蒸気で処理しています。

加熱せずに大豆を粉砕すると、プロパナールという豆の青臭さの原因物質が生じて風味が悪くなります。

加熱することで、酵素リポキシゲナーゼを失活させてプロパナールが生じるのを防いでいるのです。

ただし、加熱が強すぎると大豆のたん白が変性しすぎてしまい、水溶性成分が不溶性に変化してしまいます。

そのため、適度な温度と時間に調整して大豆を加熱することが必要になります。

 

また、この特許には言及されていませんが、大豆を微粉砕するのにも高い製造技術が必要です。

大豆は油を多く含んでいるので、粉砕すると油がにじみ出てきて製造ラインがベタベタと付着します。さらに付着が進むと、安定的に粉砕することができなくなってしまいます。細かく粉砕すればするほど、油のしみ出しは増えます。細かく粉砕しないと飲料にしたときの舌触りが悪くなるので、細かく粉砕することは必須です。粉砕の速度を下げたり、頻繁にラインを止めて清掃するなどできればいいですが製造コストが上がってしまいます。

この特許を読むだけでも、大塚食品は他社が容易に真似できない高い製造技術をもっている、と推察できます。

 

【特許番号】

P3885194

【名称】

加工大豆粉末素材、大豆飲料および豆腐様食品

特許権者】

大塚食品株式会社

【課題】

大豆の栄養素を実質的に全て含有し、しかも、官能的に優れた食感を有し、美味しくて且つ消化、吸収性が優れた大豆飲料乃至豆腐製品(豆腐様食品)を、容易に製造する技術を提供する

 

【請求項】

①生大豆を加熱処理して得られ、水溶性窒素指数が55-70であり、リポキシゲナーゼ(LOX)値が20以下であり、n-ヘキサナールを含まないかまたは生大豆中に含まれる量を100%としたときの相対値で10%以下の量で含み、且つ10重量%の濃度となるように水に溶解させた液の糖度屈折率(ブリックス値)が3.0-6.0である加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有し、均質化されていることを特徴とする大豆飲料。

 

②生大豆を95-105℃の温度下に水蒸気で120-210秒間熱処理後、微粉末化して得られる加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有し均質化されていることを特徴とする大豆飲料。

ワイエスピー 大豆を水に浸さなくてよい豆乳の新製法

大豆を水に浸しておく工程(浸漬工程)を不要にした豆乳の製造方法についての特許です。

ワイエスピーという豆腐の製造機械メーカーがこの製造方法を開発し、2013年のものづくり日本大賞で"内閣総理大臣賞"を受賞しています。

従来の豆乳の製造工程はざっくりと次の通りです。

  1. 大豆を水に浸して柔らかくする
  2. 柔らかくなった大豆をすり潰して呉汁(豆乳とおからが一緒になった汁)をつくる。
  3. 呉汁を濾しておからを取り除き、豆乳を得る。

この1の工程には、大豆の中心部まで十分に水を浸み込ませるために1~2日間が必要です。

そのため、生産リードタイムが長くなる、コストが上がる、という問題が生じます。

 

そこで、発明者は大豆を粉砕してから水と混合し、さらに粉砕するという方法を採用しました。

大豆があらかじめ細かくなっていれば、水が浸み込む時間を短縮できます。

さらに、水と混合する際にマイクロバブル(細かい気泡)を混ぜ込むことで、水の浸透をより早くしたとのことです。

  1. 大豆を粗く粉砕する
  2. 粗く砕いた大豆と水を混合する。この際にマイクロバブルも混合する。
  3. さらに大豆を細かく砕いて呉汁をつくる。
  4. 呉汁を濾しておからを取り除き、豆乳を得る。

この製法では、浸漬工程が不要になるため、リードタイムやコストの問題を解消できます。

さらに、従来の製法では大豆を水に長時間さらしていた際に豆の風味成分が流れてていたそうです。新製法ではこの風味を生かすことができるので、味の良い豆乳ができる、とのことです。

 

こうして造られた豆乳に凝固剤(にがり)を加えて豆腐を製造します。

リードタイムが短く、コストが安く、美味しい豆腐ができるというブレークスルーです。

 

大変面白い技術です。しかし、以上は製造メーカー側の言い分です。

新技術には"裏とり"が重要です。

特許がある、業界で賞をとった、とか必ずしもあてにはなりません。

食品技術ウォッチャー(趣味)として、業界のうわさを聞いたり、この製造方法が普及していくのかを観察しながら見守っていきたいと思います。

 

 

【特許番号】

特開2013-17483

【名称】

豆乳の製造方法

【出願人】

新開節夫

【課題】

マイクロバブル含有水と粉砕大豆を混合することで、長時間の浸漬工程を省略し短時間で美味しい豆乳を製造することができる豆乳の製造方法を提供する

【請求項】

  • 大豆を粗粉砕し粗粉砕大豆を製造する粗粉砕工程と、
  • 上記粗粉砕大豆の皮を除去する剥皮工程と、
  • 上記皮を除去した上記粗粉砕大豆とマイクロバブル含有水又はマイクロナノバブル含有水又はナノレベルの水とを混合して前期混合液を製造する混合工程と、
  • 混合微粉砕機械を用いて上記前期混合液をさらに微粉砕かつ混合して後期混合液を製造する混合微粉砕工程と、
  • 上記混合微粉砕後の上記後期混合液を加熱釜にて加熱して加熱混合液を製造する加熱工程と、
  • 加熱後に上記加熱混合液から豆乳を分離する分離工程と、

により豆乳を製造することを特徴とする豆乳の製造方法。

サントリー「特茶」(2) ケルセチン配糖体の減衰を抑える

サントリー「特茶」について前回に引き続き特許文献を紹介します。

前回は「特茶」に使用されているケルセチン配糖体について解説しました。今回はこのケルセチン配糖体の安定性に関する公開特許広報*1を紹介します。

 ケルセチン配糖体.png

ケルセチンやケルセチン配糖体は抗酸化能を持っています。言い換えれば、ケルセチンは酸化されやすいということです。他のものが酸化されないように、身代りに酸化される、といったイメージです。ケルセチン、いいヤツっぽいですね。

 

さて、ケルセチン配糖体が体脂肪の分解を促進させる働きがあるとのことですが、飲む前にケルセチン配糖体が酸化されて別の化合物になってしまっていては意味がありません。健康食品では、賞味期限内に必要量の健康機能成分が含まれることが担保できるか、ということがしばしば課題になります。特に飲料のような水分の多い形態では、健康機能成分しやすいというケースが非常に多いのです。例にもれず、特茶も同じ問題に行き当たったようです。ケルセチン配糖体は飲料として保存している間に徐々に酸化されてしまいます。

 

一般に、酸化されやすい成分を保護する為には酸化防止剤を使用します。酸化防止剤も自身が酸化されることで他が酸化されるのを防ぐものです。緑茶飲料の場合、酸化防止剤としてビタミンC(アスコルビン酸)が使用されます。ビタミンCを使用しないと、褐色に変色し、緑茶のフレッシュな香味が失われてしまいます。容器詰め緑茶飲料にビタミンCは必須と考えてよいでしょう。

ところが、発明者はビタミンCがケルセチン配糖体の分解を促進することを見出しました。これは面白い知見です。

そして、緑茶飲料として最低限必要なビタミンCの量と、ケルセチンの酸化促進の程度のバランスをとってビタミンC濃度100~400ppmという範囲を設定したようです。

 

ビタミンCも相手によっては"酸化促進剤"になってしまう、というのは覚えておきたい事例です。文献では、ビタミンCが酸化する際に生じるフリーラジカルがケルセチンの酸化に影響するのでは?と推測していました。

サントリーは「特茶」と同時に「大人ダカラ」という商品について特定保健用食品を申請し、両方ともトクホ表示の認可が出ています。「大人ダカラ」は既存商品の「ダカラ」にケルセチン配糖体を配合した商品だと思われますが、まだ発売されていません。今後の展開に注目です。

トクホ飲料市場で花王ヘルシアなど競合との対決のゆくえも見ものです。

 

ところで、いちサラリーマンとしての本業の都合で、2014春ごろまでこのブログの更新を停止します。ご承知ください。

【特許番号】

特開2012-183063

【名称】

ケルセチン配糖体配合容器詰め飲料

【特許権者】

サントリーホールディングス株式会社

【課題】

長期間保存してもケルセチン配糖体の安定性が良好である、ケルセチン配糖体配合容器詰め飲料を提供する

【請求項】

  1. ケルセチン配糖体が配合されており;pHが、pH5.6~6.4であり;アスコルビン酸を100~400ppm含む、容器詰め飲料。
  2.  pHが、pH5.6~6.0である、請求項1に記載の飲料。
  3. アスコルビン酸量が200~300ppmである、請求項1又は2に記載の飲料。
  4. ケルセチン配合量が、100~500ppmである、請求項1~3のいずれか1項記載の飲料。
  5. 緑茶飲料、紅茶飲料、又は烏龍茶飲料である、請求項1~4のいずれか1項記載の飲料。
  6. 緑茶飲料である、請求項5に記載の飲料。
  7. pHを、pH5.6~6.4とし;アスコルビン酸を100~400ppm配合することを含む、ケルセチン配糖体の飲料における安定化方法。
  8. pHを、pH5.6~6.4とし;アスコルビン酸を100~400ppm配合することを含む、ケルセチン配糖体が配合されている、茶飲料の安定化方法。

*1:公開広報は特許の審査前に出願内容を公開するものです。特許は未だ成立してません。

サントリー「特茶」(1) 吸収率の高いケルセチン配糖体

先日発売された「サントリー緑茶 伊右衛門 特茶」についての特許を2回にわたって紹介します。特茶はケルセチン配糖体の体脂肪を減らす効果が認められ、特定保健用食品(トクホ)を取得しています。

まずは特茶に使用されているケルセチン配糖体がどのようなものか、みていきます。

 

ケルセチン(クエルセチン、クェルセチン)とはフラボノイドの一種です。フラボノイドは植物の生体防御に関係し、高い抗酸化能を持つものが多いとされています。カテキンイソフラボンアントシアニン、フラバンジェノールなど売れてる健康食品の成分も同じフラボノイドの仲間です。ケルセチンも体に良さそうな気がしてきますね。

そんなケルセチンですが、身近なものだと、みかん類の皮、玉ねぎの皮、ソバなどに多く含まれています。原料が入手しやすいのです。

ということで健康食品業界では各社がこぞって研究開発を進めています。

サントリーもそんな企業の1つですが、今回のトクホ取得、特茶の発売で大きくリードしたと言えるでしょう。

植物中のケルセチンは、主に配糖体として存在してます。ケルセチン配糖体とはケルセチンに糖が結合したものです。上の構造式を見ての通り糖が結合できる箇所がたくさんあり、多種の配糖体が存在します。配糖体ごとにちょっとずつ性質が異なります。したがって、

  • どんな植物のケルセチンを使うか
  • どうやってケルセチンを抽出するか
  • 抽出したケルセチンをどのように加工するか、

といった選択によって、健康効果、吸収率、風味、加工のしやすさなど諸々の性質が変わってきます。ここが企業のウデの見せどころなのです。

 

では具体的にどのようなケルセチン配糖体を選択したかを見ていきます。

まず、ケルセチンは水にあまり溶けません。そのため、摂取しても吸収しにくい、飲料には使用しにくい、という課題がありました。

そこで、三栄源*1が、酵素処理イソクエルシトリン(酵素処理ルチン)という水溶性のケルセチンを造り出しました。三栄源はこれを食品原料として販売し、多くの健康食品や一般食品の酸化防止剤として採用されました。

ケルセチン配糖体.png

酵素処理イソクエルシトリンには、上記構造のグルコース残基数の異なるものが含まれています。発明者は、このうちグルコース残基が1、2、3コと増えるに従って吸収性が向上すること、グルコース残基が0、または4以上になると吸収性が低下することを見出しました。吸収性の高いそして、グルコース残基が1~3になるよう酵素処理イソクエルシトリンをアミラーゼで処理する方法を発明しました。この方法ならば、アミラーゼの反応時間を長くすればグルコース残基数を減らすことができます。反応時間を長くしてもアミラーゼではグルコース同士の結合しか切れないので、グルコース残基が0のものが増える心配はありません。

 

このようにして、「特茶」に使用されているケルセチン配糖体は造り出されました。

しかし、このケルセチン配糖体を緑茶に混ぜたらそれで製品化できるわけではありません。

次回は、ケルセチン配糖体がボトル内で分解するのを抑制する方法に関する特許文献を紹介します。

 

【特許番号】

P3896577

【名称】

クエルセチン配糖体組成物およびその調製方法

【特許権者】

サントリー株式会社、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社

【課題】

フラボノイドの一種であるイソクエルシトリンやα-グリコシルイソクエルシトリンといったクエルセチン配糖体について、その経口吸収性をさらに高める

【請求項】

1)一般式:【化1】

ケルセチン配糖体.png

(式中、Glcグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)

で示されるクエルセチン配糖体の混合物からなる組成物であって、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たすクエルセチン配糖体組成物:

 (a) 当該組成物中に含まれるn=1~3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。

2)に記載するクエルセチン配糖体組成物を含む食品。

*1:三栄源は一般消費者の知名度は低い企業だと思われますが、食品添加物全般扱う最大手です。食品業界ではすごく有名です。

ホクト きのこの包装フィルムの秘密

ホクトのぶなしめじの包装袋についての特許を紹介します。きのこの鮮度を長期間保持できるすごい樹脂フィルムです。

市販のキノコのほとんどは、樹脂フィルムで"密閉"されたパックで販売されています。ここで注意したいのは、樹脂フィルムはわずかながら気体を透過するということです。身近な所だと、災害用に保管したペットボトル、数年たったボトルの水面を調べてみてください。新品と比べて水面が下がってないでしょうか?PET樹脂は水蒸気をわずかに通すので、ボトル内の水が外部へ蒸発しているのです。あれだけ分厚い樹脂ですら、水蒸気を通すのです。

そのため、食品の包装は気体の透過性を考慮して設計されています。多くの食品のフィルムの裏が銀色なのは、酸素や水蒸気(または光)の透過性を低くするためアルミと樹脂と併用しているためです。

さて、きのこの包装を設計する場合、どのような気体の透過性を考えればいいのでしょうか?

きのこは生きているので、呼吸をしています。そのため、酸素がなくなり二酸化炭素が増えると、もっぱら嫌気呼吸が行われます。すると、アルコールが発生し、パックきのこ特有のムレ臭さが生じます。この状態で保存すれば、パックきのこの独特臭さがどんどん増して不味くなるのです。

そこで、従来から酸素をパック内に供給するため、酸素透過性が高いフィルムを使用したり、パックに穴をあけたりしてきました。

 

しかし、きのこは生きています。酸素が供給されれば成長します。ただ伸びてくれるだけならいいのですが、きのこは菌糸を伸ばして、細い綿毛状になります。これはカビの菌糸と見分けがつきません。きのこ自体は元気に生きているのですが、消費者にとっては「カビが生えた!」ってなるわけです。

そこで発明者は、酸素を適度に供給しつつ、菌糸を成長させない方法を検討しました。その結果、きのこの嫌気呼吸によって生じるアルコールが菌糸の成長を抑制することがわかったそうです。そして、酸素透過性の高いフィルムを採用し、フィルム微細な穴をあける方法を見出しました。この方法により、きのこに酸素を多すぎない程度に供給しつつ、嫌気呼吸により生じたアルコールを微細な穴から逃がします。きのこから生じるアルコールと穴から逃げるアルコールの量が釣り合わせてバランスをとります。すると、パック内に菌糸が成長しない程度で、かつアルコール臭さが弱い、絶妙な気中アルコール濃度を保つことができるのです。

生鮮食品の包装フィルムがここまで工夫されている、という話を知ったのは初めてです。とても驚きました。安価に実現できる見事な技術です。包装にまで工夫を凝らす技術の広さが、きのこ業界でのホクトの快進撃の理由の一つだと言えるのではないでしょうか?

 

【特許番号】

P4211017

【名称】

シメジ類キノコ包装体

【特許権者】

ホクト株式会社

【課題】

トレイを使用しない加熱シール袋による包装(ピロー包装)に際し、簡単な方法でより長期間にわたって鮮度が保持できるシメジ類キノコ包装体の提供

【請求項】

ブナシメジ等のシメジ類を合成樹脂フィルム製袋内に封入してなるシメジ類キノコ包装体において、

 前記合成樹脂フィルムとして酸素透過度が800cc/m2・24h・atm以下の材料を使用し、袋表面積に対する面積比率が1.53×10-5~4.60×10-5%となるように、直径が約100μの微細孔を1~3個開けて袋内外に微量の通気性を持たせることにより、該袋内のキノコの嫌気呼吸によって発生するアルコール濃度が0.002%~0.010%で平衡状態となるようにしたことを特徴としてなるシメジ類キノコ包装体。

キリン「すぅーっと茶」 副交感神経を働かせてリラックスさせるユーデスモール

キリンの「からだ想い茶 すぅ~と茶」についての特許を紹介します。

この商品はユーカリ精油成分を添加した紅茶飲料です。ネーミングから察するに花粉症の鼻がすぅーっとすることを狙ったのではないかと推測します。薬事法の関係でメーカーは肯定しないと思いますが。

      

「すぅーっと茶」は基礎研究の成果を生かした商品とのことです。キリンはビールの原料であるホップの成分を研究しているようです。その中で、β-ユーデスモールという成分がTRPA1というカルシウムイオンチャネルに作用することで「冷たい」という感覚を引き起こすことを発見しました。このβ-ユーデスモールはビールの冷涼感やスパイシー感に寄与しているそうです。同じ成分はユーカリにも含まれています。ユーカリオイルがすぅーっとして冷たく感じるのは、β-ユーデスモールが一因と言えます。

またβ-ユーデスモールには、自律神経調節作用があるとのことです。リラックスを感じさせる副交感神経を働かせ、興奮を感じさせる交感神経の活動を低下させるそうです。

「すぅーっと茶」はβ-ユーデスモールを含むユーカリ成分を配合しているので、飲むとすぅーっとするわけです。また、β-ユーデスモールの自律神経調整作用で飲んだ人にリラックスしてほしいという想いも込められているのだと想像します。

  ←詳しくはキリンのニュースリリースへ。

 

ところが実は「すぅーっと茶」はすでに製造終了しています。季節限定販売なのかもしれませんが、売れたという話も聞きませんし、「からだ想い茶」というブランドの他のアイテムも同様に製造終了しています。

基礎研究と商品開発を結び付ける難しさを感じます。「花粉症の鼻が通る」とか「自律神経調整作用でリラックス」といったコピーは、薬事法により食品で謳うことができません。そのような効果を謳うことができるのは、特定保健用食品(トクホ)だけです。しかし、トクホを前述のような効果で取るのは非常に困難です。だから、効果は謳わずに「消費者が自発的に効果を想像してくれる」ような売り方が必要になるわけです。「すぅーっと茶」はそれに失敗した、ということです。

 

しかしながら、β-ユーデスモールに関する研究成果は興味深いです。特許も取得しています。「すぅーっと茶」とは違った商品、売り方で再チャレンジ仕掛けてくるかもしれません。

基礎研究をいかに商品開発に活かすか、というのは研究開発の大きなテーマの1つです。再チャレンジの結果の成否に関わらず、参考になることは間違いありません。楽しみに注目していきたいと思います。

【特許番号】

P5153931

【名称】

ユーデスモールを含有する非アルコール飲料

【特許権者】

キリンホールディングス株式会社、麒麟麦酒株式会社、キリンビバレッジ株式会社

【課題】

非アルコール飲料において、簡便かつコスト面に優れた手段により、冷涼感に優れた爽快な味覚の飲料を提供する

健康志向の観点から、健康飲料としてマイルドな条件で、健康機能を奏する機能性飲料を提供する

【請求項】

β-ユーデスモールを有効成分とし、該有効成分の飲料中の含有量が5~100ppbであることを特徴とする自律神経調節作用を有する冷涼感に優れたアルコール含有量が1%未満である非アルコール飲料。