食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

味の素 グリシンの睡眠改善効果は偶然に発見されたのか?

味の素の睡眠改善用サプリメント「グリナ」についての特許です。

グリナは睡眠を改善する為の健康食品で、アミノ酸グリシンを主成分としています。グリシン自体は日持ち向上剤などの用途で広く様々な食品に使用されています。この特許はグリシンの睡眠改善剤としての用途に関するものです。ですから、商品に睡眠改善を謳わなければ味の素の特許を侵害せず、グリシンを販売することはできます。

発明者はアミノ酸の機能性研究を行っていたそうですが、「睡眠を改善する食品」を探していたわけではないそうです。社内試験でグリシンをたまたま摂取し「ぐっすり眠れるようになったかも?」という気付きを得て、研究開発を進めたようです。

(味の素ホームページ:開発者からのメッセージ

この特許の公開広報(WO2005/067738)を見ますと、グリシンの機能として、睡眠改善に加えて、便通改善、不快な香りのマスキングを挙げています。(最終的に特許として成立したのは睡眠改善だけですが。)このことから、味の素がグリシンの機能について多角的な研究を行っていたことがわかります。

 

グリシンは食品素材として古くから広く使用されいる、ありふれた素材です。グリシンの製造方法は一般に化学合成法ですから、味の素社は自社で製造せず化学系メーカーから購入していると推測します。つまり、味の素社がグリシンという素材そのものに関して大きなアドバンテージを持っていたわけではないのです。味の素と同じようにグリシンを購入して使用している他社にも、グリシンの睡眠改善の効果を発見するチャンスが十分にあったわけです。しかし、実際にはアミノ酸研究に強みを持つ味の素が発見しました。

 

研究員という個人レベルでみると、偶然の発見と言えるかもしれません。しかし、研究開発を行う組織としてみると偶然の発見とはいえません。様々なアミノ酸について多角的に研究していたこと、偶然の気付きをきちんと検証できる研究能力、研究成果を具体的な製品やビジネスに落とし込む能力を備えていたのです。だからこそ、偶然の発見を逃さなかったのだと思います。

特許文献から、味の素社の研究開発力の高さがうかがい知れます。

余談ですが、グリシンは一般的な食材ではクルマエビなどの甲殻類に多く含まれています。グリナは1袋3000mgのグリシンが入っていますが、このグリシン量はクルマエビ約200g分に相当します。ぐっすり寝たいときは夕飯にエビ天やエビチリを食べたらいいかも知れませんね。

 

【特許番号】

P4913410

【名称】

グリシンを含有する食品およびその用途

特許権者】

味の素株式会社

【課題】

従来にない形態のグリシン含有食品を提供し、グリシンに基づく新たな機能を有する食品を提供する

【請求項】

1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有する、熟眠障害改善剤。