ミツカン 1990年代に納豆と豆腐を研究していたが、納豆しか発売されていないのはなぜか?
ミツカンの納豆のたれ:現在販売されている商品の1世代前、たれを箸でつまんで入れるタイプについてです。ただし、技術についてはほとんど触れません。
「分野調整法」ってご存知でしょうか?正確には「中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律」です。
ざっくり言うと、中小企業しかいない業界に大企業が参入しようとした場合、業界団体が政治力を発揮すれば大企業の参入をストップできるよ、という法律です。大企業の参入で中小企業がつぶれるのを防ごう、っていうのが目的です。
食品では、豆腐*1やラムネなど*2が実質的に分野調整法の対象になっていることが知られています。
他にはどんな食品が分野調整法の対象なのでしょうか?この法律の難しいところは、実際に大企業が参入しようとして業界団体が政治力を発揮したのち初めて効力がある、というところです。「どの食品は大企業参入NG」というのが事前に見えにくく*3、業者間の利害調整の中で見えてきます。途中まで業務が進捗してても、最終的に発売できない、ということがあり得ます。やっかいですね。
さて、ミツカンの話に戻ります。ミツカンの特許を調べると、1990年代中盤ぐらいに納豆、豆腐に関する特許が続けて出願され始めます。おそらく、新規事業参入のため大豆に注目したのでしょう。食酢で絶大なブランド力を持っていますので、日本らしい素材の大豆に目を付けたのはありそうなことです。
そして数年の研究開発ののち「におわなっとう」「ほね元気」という革新的な商品を引っ提げて2000年に納豆市場に参入し大成功をおさめます。地道な菌の探索や大規模なマーケティングという大企業が得意な手段が成功要因と言えます。
さらなる一手として、ミツカンはたれの革新を行いました。たれに増粘多糖類を加えて箸でつまめる固さにしてトレイ内に設けた小スペースに充填するという方法で、特許化されています。このゲル状のタレには賛否両論ありましたが、結果的にはヒットしました。現在はさらなる改良を加えて、蓋にたれが封入されている「パキっと!たれ!」に切り替えられています。
納豆市場には、ミツカンが参入するまでいわゆる食品大手がいませんでした。おそらくミツカンが参入する際には、「分野調整法」によるストップがかからないか調査したはずです。あるいは、何らかの利害調整があったかもしれません。
そして、ミツカンが同時期に技術を検討していた「豆腐」ですが、これは発売されませんでした。複数の特許まで取得しているのにも関わらず、です。おそらく「分野調整法」がらみで参入できなかったと推測します。正式に法律を適用されてストップがかかったわけではなく、業界団体との事前の調整によってミツカン側が参入を自粛した、という体だったのでしょう。ミツカンの研究者、技術者の落胆を想像すると、気の毒になります。
もしミツカンが豆腐製造に参入していたら、、、納豆に革新をもたらしたミツカンですから、豆腐でもスゴイ商品が生み出していたのではないでしょうか?
特許を調べながら妄想を膨らませていた次第です。
【特許番号】
P4289568
【名称】
容器入り納豆及びその製造方法
【特許権者】
株式会社ミツカン 他
【課題】
調味料収納部に充填された個包装していない調味料が流通過程で漏れ出さず、また、当該調味料を容易に納豆収納部側に移動でき、しかも当該調味料を納豆中に均一に分散できる容器入り納豆を提供する
【請求項】
納豆収納部及び調味料収納部を有する容器本体と前記容器本体を塞ぐ蓋体とからなる納豆容器内に、納豆及び調味料を収納してなる容器入り納豆において、
キサンタンガムと、ローカストビーンガム及びタラガムのうちの少なくともいずれかとを含有し下記の測定方法によって測定したゲル強度が0.05N以上0.3N以下であるため喫食時に箸で摘み上げることのできるゲル状調味料を、個包装をせずに前記納豆容器の前記調味料収納部内に収納してなることを特徴とする容器入り納豆。
ゲル強度の測定方法: 前記ゲル状調味料を試験用サンプルに用いてそれを径40mm、厚さ15mmのシャーレの窪みへすりきりに入れてゲルを固化させた後、ゲル強度測定機器であるクリープメーターのパラメータとして、プランジャの圧入速度を1mm/s、サンプル厚さを10mm、プランジャ形状を径8mmの丸型、ロードセルの規格を2Nに設定し、ゲル破断時の荷重を5箇所測定した値のうち最大値及び最小値を1つずつ除いた3値の平均値を求め、これをゲル強度とする。