食品特許を読みあさろう

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香川大学 松谷化学で製造を開始した希少糖の製造方法

希少糖D-プシコースとD-アロースの製造方法に関する特許です。産学連携による研究成果のようです。

松谷化学社が希少糖含有シロップの製造を開始した、というニュースを見てその技術背景を調べてみました。

希少糖というのは、「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と定義されるようです。

工業的に最も普及した希少糖は、トレハロースです。トレハロースは、自然界では乾燥に適応するうえで重要な役割を担っているとされ、キノコ類に多く含まれること、クマムシが休眠前にトレハロースを産生すること、などが知られています。

 

このトレハロースは、以前は酵母による発酵法で造られていましたが低収率のため1kgあたり数万円で売られていたそうです。しかし、林原社が澱粉を原料とした酵素法で効率よくトレハロースを製造する方法を確立しました。そして1kgあたり300円程度で売り出され、利用が広がりました。その結果、ユーザーの食品メーカーが予期されていなかったトレハロースの機能を発見し、それがさらに利用を促進する、といった好循環ができあがりました。

 

近年の研究によると、希少糖D-プシコース、D-アロースには抗肥満、血糖値上昇抑制、抗血圧上昇などの健康機能があると報告されています。しかし、量産化方法が確立されておらず普及は難しいのが現状です。

 

松谷化学社が製造を開始した希少糖含有シロップには、D-プシコース、D-アロースの混合物が含まれているそうです。なぜトレハロースのような高純度粉末を造らないのでしょうか?高純度粉末の方が幅広い用途に使えて便利です。理由は次の2つです。

①D-プシコース、D-アロースを単離精製することが工業ベースではできない。

D-プシコースはD-グルコースから酵素反応で生じます。また、D-アロースはDプシコースから酵素反応で生じます。この3つの糖は全て単糖であり、単離精製を効率よく行うことができずコストが高くなってしまいます。

ならば、単離せず混合物のまま結晶化すれば良いのでは?と考えるのが妥当です。しかし、、

 

②D-プシコース、D-アロースの混合体結晶を造ることが工業ベースではできない。

この特許文献では、混合体結晶を造る方法が記載されています。しかし、実際に生産が開始されたのは液体シロップです。何らかの理由で結晶化できていないと推測できます。はっきりした理由はわかりませんが、単糖のような水溶性が高く、高濃度になったときにベタベタするようなものを効率よく結晶化できないというのは容易に想像できます。

 

これは"まだ"混合シロップしか造れていない、ということです。今後、単離精製、結晶化というハードルが解消される可能性があります。また、別の方法による量産化方法が開発される可能性もあります。

トレハロースのように使ってみたら予想外の効果が得られた、という事態もあり得ます。今後の研究に期待です。

 

【特許番号】

P4873493

【名称】

D-プシコースとD-アロースの糖質複合体結晶およびその製造方法

【特許権者】

国立大学法人香川大学、他2社

【課題】

D-プシコースおよびD-アロースを含有する糖液から結晶性糖質を高収率で採取しうる新規な方法を確立し、併せて、その方法で得られる結晶性糖質の特性を解明するとともに斯かる結晶性糖質の製造方法を提供する

【請求項】

D-プシコースとD-アロースとの組成比が約1:1乃至2:3である細長い棒状結晶のD-プシコースおよびD-アロースの糖質複合体結晶。