サントリー 玄米茶の特許にみる力技
室温以下で飲んでも玄米のでんぷん質の糊っぽさが低減された香味良好な玄米茶飲料についての特許です。
おそらく「伊右衛門 玄米茶」に関する特許だと思われます。
玄米茶は緑茶と焙煎した米を抽出した飲料です。煎り米の香ばしさが魅力で、お茶漬けにするのにぴったりだな、なんて思います。
ペットボトル入りの玄米茶の場合、多くの場合は冷蔵庫で冷やして飲みます。このとき、煎り米由来のでんぷんが糊っぽいべたつきを感じさせてしまうそうです。そのため、玄米の香ばしさを強くしようとすると、べとつきが増してしまうという課題がありました。
発明者は、カテキンやカフェインといった渋味、苦味成分の濃度を調整することで、玄米茶の香ばしさを出してもべたつきが感じにくくできることを見出しました。
この特許で私が注目したのは、技術そのものではなく、特許の取り方に関してです。商品開発時に特許を出願する進め方として、次の2つが考えられます。
①商品企画段階で立案された特許戦略に基づいて、商品設計に先行または並行して特許出願準備を進める
②商品企画を具現化して商品設計を行った結果、特許出願できそうなので準備を進める
以前に紹介した花王ヘルシアコーヒーは①、ここで紹介している特許は②だと推測します。どちらが優れているか、という議論はここではあまり意味がないので置いておきます。
商品開発の現場では、②の方法でいかに良い特許を取れるかを考える場面*1が多いと思われます。ここで言う良い特許とは技術の優劣と必ずしも関係ありません。他社の排除、牽制して利益を独占的に得られるようにするのが良い特許です。
②の場合、商品設計を進めた結果としてできたモノはできてます。特許を出願するために、既に出来ている設計の特徴的な部分を見出して他社の邪魔になるような広くて強い請求項をひねり出すのです。開発者や特許担当者の腕の見せ所と言えます。
この特許は、大まかにとらえると「苦味と渋みのバランスででんぷんのべたつきをマスキングしている」というものです。このままでは特許には成りえません。しかし、これを請求項のように「300ppm以上のカテキンと40ppm以上のカフェインを・・・4:1以下の比率で・・・可溶性固形分濃度を0.26~0.29%に・・・・」と言い換えれば、特許になり得るのです。
発明者の素晴らしい力技に感服しました。大いに参考にさせてもらいたいと思います。
【特許番号】
P5155093
【名称】
容器詰玄米茶飲料
【特許権者】
サントリーホールディングス株式会社
【課題】
玄米及び緑茶以外の添加物等を使用することなく、或いは添加物等の使用をできるだけ少量に抑え、室温以下の温度で飲用しても風味に優れた、容器詰玄米茶飲料を提供する
【請求項】
1)300ppm以上のカテキン(A)と、40ppm以上のカフェイン(B)とを含有する玄米茶飲料で、前記カテキン(A)のカフェイン(B)に対する割合[(A)/(B)]が4.00以下であり、可溶性固形分濃度が0.260~0.290(%)である容器詰玄米茶飲料。
2)容器詰玄米茶飲料の製造方法であって、以下の工程:
(1)玄米と緑茶葉を混合して玄米混合茶葉を得る工程、
(2)該玄米混合茶葉の重量を基準として、5~500重量部、60~100℃の抽出溶媒で3~60分抽出して抽出液を得る工程、
(3)該抽出液を容器に充填する工程、及び
(4)殺菌処理する工程、
を含み、ここで、前記玄米混合茶葉の割合が、緑茶葉1に対して玄米が0.4~1(重量比)であり、かつ、緑茶葉が緑茶葉全量に対して20%以上(重量比)の茎茶を含む、前記製造方法。
*1:「特許●件出願」というのが開発者の成果評価となるので戦術的には意味のない出願をする場合がある、と聞きます。。。多くの場合は、商品を他社に真似されないようにという意図だと思いますが。