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花王【ヘルシアコーヒー(3)】 ヘルシア緑茶の苦味はいかに低減されたか?

ヘルシアコーヒーの苦味低減方法を紹介する前に、従来のヘルシアの苦味低減技術について紹介しておきます。

ヘルシア緑茶には、高濃度の茶カテキンが含まれています。しかし、高濃度のカテキン類を飲料に使用するためには次の2つの問題があります。

1)カテキン類は水に溶けにくく、濁りや沈殿を生じる原因になる。

2)カテキン類には苦味があり、高濃度にすると苦くて飲めない。

発明者は、この2つの問題をシクロデキストリンカテキン類を包摂することで解決しました。シクロデキストリンは環状のオリゴ糖で、食品添加物として使用が認められています。

 

包摂とはシクロデキストリンなど環状の分子で他の分子の一部をその環で取り囲むことです。包摂を利用すると、従来使われていた化合物でもその性質を変えることができます。薬の成分の吸収率を変える、などです。そのため包摂は食品よりも医薬の分野で研究が進んでいます。*1

 

どのように解決したかというと、

1)シクロデキストリンカテキンを取り囲むことで水との親和性が高まります。そのため、カテキンが水に溶けやすくなり、濁りや沈殿が生じにくくなります。濁りや沈殿を売りにしたお茶が上市されていますが、どのボトルにも均一に濁りや沈殿を生じさせる製造技術が必要になります。*2さらに、有効成分であるカテキンがペットボトルの底にたまって飲む時に出てこないと、体脂肪減少の効果は小さくなってしまいます。

濁りや沈殿は、本来的には生じさせたくないものなのです。

 

2)シクロデキストリンカテキンの苦味を発現する官能基を覆うことで、苦味部分が舌の味蕾に触れなくなります。その結果、カテキンの苦味が低減されます。

 

こうしてカテキンを高濃度にしたヘルシア緑茶が生まれたわけです。ヘルシア緑茶は他のお茶よりも苦いですが、おそらくプラセボ的な効果感を増強する為に意図して苦くしていると推測されます。良薬口に苦し、ってやつです。健康食品では、意図的にと効き目のありそうな味にすることがあります。その証拠に、同じく高濃度茶カテキンが含まれるヘルシアウォーターヘルシアスパークリングは、ヘルシア緑茶ほどの苦味がありません。

ヘルシアコーヒーについて考えてみます。シクロデキストリンの苦味低減効果は絶大なようですが、対象分子を必ず包摂できるわけではありません。シクロデキストリンの環に、苦味分子がうまくハマってくれなければなりません。コーヒーの苦味はカテキンではないので、シクロデキストリンで包摂できるとは限らないわけです。花王はどのように、高濃度クロロゲン酸を含むヘルシアコーヒーの苦味を低減したのでしょうか?

 クロロゲン酸の構造式

次回はヘルシアコーヒーの苦味低減技術に関する特許を紹介します。

 

【特許番号】

P3342698

【名称】

容器詰飲料

【特許権者】

花王株式会社

【課題】

カテキン類の含有量が多くても、外観の透明性を呈する容器詰飲料を提供することにある。

【請求項】

次の非重合体成分(A)、非重合体成分(B)及び成分(C):

(A)非エピ体カテキン

(B)エピ体カテキン類、

(C)環状デキストリン

を含有し、それらの含有重量が容器詰めされた飲料500mL当り、

(イ)(A)+(B)=460~1300mg、

(ロ)(A)=160~1040mg、

(ハ)(A)/(B)=0.54~4.0、

(ニ)(C)=750~5000mg

であって、飲料のヘイズ値が22以下である容器詰飲料。

*1:食品分野では、包摂に使用できる化合物がシクロデキストリンぐらいしか認可されていません。医薬分野では他にもいろいろな化合物を使うことができます。

*2:その技術がないと、、工場のタンクの底に沈殿物がたまって、沈殿物だけが充填されたボトルなんてのが発生する可能性すらあります。