食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

味の素 成形肉を造る酵素トランスグルタミナーゼ

畜肉や魚介類の結着などに使われる酵素トランスグルタミナーゼについての特許です。この酵素は味の素社から「アクティバ」という商品名で業者向けに販売されています。

食肉加工業者は、アクティバを使って下の写真のような成形肉が作るなどしています。

トランスグルタミナーゼは生物に広く存在する酵素です。例えば、血液が固まるのはこの酵素の働きによります。それはトランスグルタミナーゼにタンパク質とタンパク質をくっつける働きがあるからです。もう少し詳しくいうと、タンパク質のグルタミン残基に作用してタンパク質同士を結合させる反応を触媒するのです。

食品では、タンパク質素材をくっつける結着剤として使用されます。例えば、小さい肉片にトランスグルタミナーゼの粉末をまぶして固めておくと、大きなステーキ肉ができます。成形肉ってやつです。また、小さい海老の身をくっつけて大きな海老の身を作ることもできます。つなぎ目は素人の方にはほぼ判別できません。
その他、かまぼこの製造時にすり身に混ぜ込めば、食感の固いかまぼこができます。麺の生地に練りこめばコシのあるプリッとした食感になります。
さらに近年では分子ガストロノミーという高級レストランの前衛的な料理にも使用されています。

トランスグルタミナーゼは味の素社と天野製薬社が、新規な微生物由来のトランスグルタミナーゼを安価に生産することで工業化されました。従来から知られていた動物由来のトランスグルタミナーゼは抽出等が困難なため、供給量やコスト面で食品への使用は現実的ではありませんでした。
また、動物由来のトランスグルタミナーゼはカルシウムイオンがないと働かない性質があります。カルシウムイオンには特有の風味があるなどの問題があります。しかし、発見されたトランスグルタミナーゼはカルシウムイオンがなくても働く性質がありました。食品への利用に有利です。

reaction mechanism of tTG
トランスグルタミナーゼはその機能が従来から知られていた酵素でした。この発明のすごいところは、トランスグルタミナーゼの機能を様々な食品に利用できることを見出した点だと感じます。基礎的な研究の知見をどのように利益に結び付けるか、そのストーリーを描くのは難しいことです。
研究起点の事業構想力と、それを支える特許の巧さを見習いたいなぁ、と思う次第です。

【特許番号】
P2572716
【名称】
新規なトランスグルタミナーゼ
特許権者】
味の素株式会社、天野製薬株式会社
【課題】
従来トランスグルタミナーゼの供給は動物に由来しているため実用性を考慮した場合、供給量、供給費用、保存費用、精製の困難さ等の種々の面から不利でありこのままでは産業上の利用への可能性はほとんど考えられなかった。
従って、本発明の課題は供給量、コストの面、精製の容易さ等のいずれの面からも問題はなく、しかも反応にCa2+を必要としない点等、実用性の高い新規なトランスグルタミナーゼの提供である。
【請求項】
ペプチド鎖内のグルタミン酸残基のγ-カルボキサミド基のアシル転移反応を触媒するトランスグルタミナーゼであって、Ca2+に非依存性であり、分子量が約38,000~約41,000であり、至適温度が45~55℃付近であり、至適pHが5~8付近にあり、pH5~9付近で安定であり、ベンジルオキシカルボニルグルタミニルグリシン、ベンジルオキシカルボニルグルタミニルグリシンエチルエステル、ベンジルオキシカルボニルグルタミニルグルタミニルグリシン、ベンジルオキシカルボニルグリシルグルタミニルグリシルグリシン、ベンジルオキシカルボニルグリシルグリシルグルタミニルグリシンのいずれかに作用する性質を有することを特徴とする新規なトランスグルタミナーゼ。