食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

ポッカ 缶入りコーンスープの風味劣化を抑える

ポッカの缶入りコーンスープに関する特許です。

一般のお客様は、加工食品を「長期保存しても味が変わらないもの」と思うことが多いようです。

しかし実際には、作りたてと賞味期限ぎりぎりではかなり味が異なります。

例えば戸棚の奥でストックしておいたカップ麺と、スーパーで買ってきたばかりのカップ麺は味が違います。とはいえ比べるような場面はフツーはありませんので、なかなか気付かれない事実です。

ただし、食品によっては保存中に味が落ちることが認識されています。

代表的なものはビールです。これを知らしめたのはアサヒビールです。

アサヒビールは造りたてのビールを供給する体制を整えたうえで「できたてのうまさ」を訴求しました。

私は5年間も常温保存したスーパードライを飲んだことがありますが、色がすっかり変わって黒ビールのようになっていました。

5年はやり過ぎですが、数日、数週間でも加工食品の風味は変化していくのです。

 グアイアコールの構造式

常温で長期保存できる食品について言うと、食品の風味を変える代表的な要因は次の通りです。

  • メイラード反応
  • 酸化反応
  • 発酵*1

要因は複数ありますが、どの要因も保存温度が高いと促進されます。

だからこそパッケージに「涼しいところで保管してください」などと書かれているわけです。

ここで缶入りのコーンスープについて考えます。

コーンスープは自販機やコンビニなどのホットベンダーで提供されます。つまり販売直前の保存温度は約60℃です。

化学反応は温度が10℃上がると、速度が2倍になると言われます。*2

日本の年間平均気温は15~20℃です。ホットベンダーで保存した場合、風味の変化の速度は2の4乗=16倍になるわけです。

ですから、ホットベンダーでの保存中の変化への対策が必要です。

 

この特許の発明者は、酸化反応に注目しました。

食品の風味変化を抑える場合、食品から酸素を追い出すというのは定石です。

(代表的なのは「明治おいしい牛乳」の製造方法です。)

製造のどの工程で、どのように、酸素を追い出すかの選択は、製造コストなどに効いてきます。

発明者は、均質化(ホモゲナイズ)工程で酸化が起こりやすいことを見出しました。そして、均質化工程にかける前のスープに窒素ガスを吹き込むことで溶け込んでいる酸素を追い出しました。すると、低コストで均質化工程での酸化を抑えることができたそうです。

その結果、製造工程での酸化を抑えることで、酸化で生じたラジカルを減らし、ホットベンダーでの風味劣化を抑えることができました。

 

世の中にはこの特許技術のように、食品の風味劣化を防ぐ技術がさまざま使われています。その多くは各社独自の秘密のノウハウになっています。

この特許を読む限り、特許取らないで秘密にしておいた方がいいのでは?と感じます。

他社がこの特許技術を使ったとしても、ポッカがその他社製品にポッカの特許技術が使われているか判別しづらいからです。

特許侵害が証明できなければ、他社による侵害をやめさせる方法はありません。

逆に解釈すると「この程度の技術は知られてもいい」とポッカが考えている可能性もありますが。。

 

【特許番号】

P4644396

【名称】

均質化工程を有する液体食品の製造方法

特許権者】

株式会社ポッカコーポレーション

【技術分野】

液体食品の製造に関するものであり、更に詳細には、均質化工程を有する液体食品の製造において、長期間に亘って高品質を維持する液体食品の特に工業的にすぐれた効率的製造に関する

【請求項】

原料を水に溶解させ調合タンクで調製した後、均質機により均質化する工程の前を、特異的に、内容液の溶存酸素量を5ppm以下に低減せしめて、均質機により20~300kg/cm2の圧力で且つ50~70℃で均質化処理し、レトルト殺菌すること、を特徴とする、乳製品、糖類、澱粉類を含有しレトルト殺菌工程を有する液体食品の製造工程及び/又は加温保管時及び/又は長期間保存時の、ショ糖の分解及び/又はアミノ酸の変化・劣化を抑制し品質を維持する方法。

*1:ここでは食中毒の原因にはならない微生物の増殖も、広い意味で発酵としました。例えば、果実飲料などでバニリンからグアイヤコールが産生するといったものも含めています。

*2:あくまで一般論で例外だらけの経験則です。10倍以上になることも。