サントリー「特茶」(1) 吸収率の高いケルセチン配糖体
先日発売された「サントリー緑茶 伊右衛門 特茶」についての特許を2回にわたって紹介します。特茶はケルセチン配糖体の体脂肪を減らす効果が認められ、特定保健用食品(トクホ)を取得しています。
まずは特茶に使用されているケルセチン配糖体がどのようなものか、みていきます。
ケルセチン(クエルセチン、クェルセチン)とはフラボノイドの一種です。フラボノイドは植物の生体防御に関係し、高い抗酸化能を持つものが多いとされています。カテキン、イソフラボン、アントシアニン、フラバンジェノールなど売れてる健康食品の成分も同じフラボノイドの仲間です。ケルセチンも体に良さそうな気がしてきますね。
そんなケルセチンですが、身近なものだと、みかん類の皮、玉ねぎの皮、ソバなどに多く含まれています。原料が入手しやすいのです。
ということで健康食品業界では各社がこぞって研究開発を進めています。
サントリーもそんな企業の1つですが、今回のトクホ取得、特茶の発売で大きくリードしたと言えるでしょう。
植物中のケルセチンは、主に配糖体として存在してます。ケルセチン配糖体とはケルセチンに糖が結合したものです。上の構造式を見ての通り糖が結合できる箇所がたくさんあり、多種の配糖体が存在します。配糖体ごとにちょっとずつ性質が異なります。したがって、
- どんな植物のケルセチンを使うか
- どうやってケルセチンを抽出するか
- 抽出したケルセチンをどのように加工するか、
といった選択によって、健康効果、吸収率、風味、加工のしやすさなど諸々の性質が変わってきます。ここが企業のウデの見せどころなのです。
では具体的にどのようなケルセチン配糖体を選択したかを見ていきます。
まず、ケルセチンは水にあまり溶けません。そのため、摂取しても吸収しにくい、飲料には使用しにくい、という課題がありました。
そこで、三栄源*1が、酵素処理イソクエルシトリン(酵素処理ルチン)という水溶性のケルセチンを造り出しました。三栄源はこれを食品原料として販売し、多くの健康食品や一般食品の酸化防止剤として採用されました。
酵素処理イソクエルシトリンには、上記構造のグルコース残基数の異なるものが含まれています。発明者は、このうちグルコース残基が1、2、3コと増えるに従って吸収性が向上すること、グルコース残基が0、または4以上になると吸収性が低下することを見出しました。吸収性の高いそして、グルコース残基が1~3になるよう酵素処理イソクエルシトリンをアミラーゼで処理する方法を発明しました。この方法ならば、アミラーゼの反応時間を長くすればグルコース残基数を減らすことができます。反応時間を長くしてもアミラーゼではグルコース同士の結合しか切れないので、グルコース残基が0のものが増える心配はありません。
このようにして、「特茶」に使用されているケルセチン配糖体は造り出されました。
しかし、このケルセチン配糖体を緑茶に混ぜたらそれで製品化できるわけではありません。
次回は、ケルセチン配糖体がボトル内で分解するのを抑制する方法に関する特許文献を紹介します。
【特許番号】
P3896577
【名称】
クエルセチン配糖体組成物およびその調製方法
【特許権者】
サントリー株式会社、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
【課題】
フラボノイドの一種であるイソクエルシトリンやα-グリコシルイソクエルシトリンといったクエルセチン配糖体について、その経口吸収性をさらに高める
【請求項】
1)一般式:【化1】
(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)
で示されるクエルセチン配糖体の混合物からなる組成物であって、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たすクエルセチン配糖体組成物:
(a) 当該組成物中に含まれるn=1~3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。
2)に記載するクエルセチン配糖体組成物を含む食品。