食品特許を読みあさろう

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東洋ライス 研がなくていい、だけじゃない無洗米「金芽米」

前回まで3回にわたって無洗米の製造技術について紹介しました。今回は現在のところ最も進化した無洗米、東洋ライスの「金芽米」について紹介します。

従来の無洗米は、通常の精白米と違って研がなくてもよい「簡便さ」が利点でした。金芽米は「簡便さ」に加え「美味しさ」「栄養価の高さ」を訴求している点が新しいと言えます。

前回までの3回では、精白米を無洗米に加工する方法について解説しました。では、どのように玄米を精白米に加工しているかご存知でしょうか?これが金芽米を理解するポイントです。

玄米の糠層を削って精白米を製造する(専門用語では搗精(とうせい)とも言います)には、大別して2つの方法が使われます。(詳しくはWikipedia精米機を参照)

  • 摩擦式:米粒同士を擦り合わせて糠を削る。
  • 研削式:米粒を回転したロール状の砥石に接触させて糠を削る。

一般的な炊飯用のうるち米を大規模スケールで搗精する場合、摩擦式が採用されます。

摩擦式では、削り取られた糠が白米の表面に再度付着してしまいます。この表面に付着した糠を肌糠(はだぬか)といいます。肌糠は精白米の糠臭さの原因であり、この肌糠を取り除いた白米が無洗米です。肌糠は再付着によって生じているので、糠層を単に削るだけでは取り除くことができないのです。

 

ところで、糠とは何なのでしょうか?

籾を取り除いた玄米は、外側から順に果皮、種皮、糊粉層、亜糊粉層、澱粉層からなっています。また、先端部には胚芽があります。このうち、澱粉層以外を取り除いた米が精白米です。したがって糠とは、削り取られた果皮、種皮、糊粉層・亜糊粉層(と澱粉層の一部)と胚芽の粉末状物と言えます。

発明者は、従来では糠として取り除かれていた亜糊粉層に着目しました。亜糊粉層は、白米の美味しさを阻害する糠臭さがなく、しかも甘味成分(オリゴ糖)やビタミンなどの栄養素が含まれています。

しかし、従来の摩擦式精米法では亜糊粉層は糠として取り除かれてしまいます。それは、精米の効率を上げるため澱粉層の一部ごと外側の層を削り取っていたからです。そこで、発明者は糠層を少しずつ削れるように摩擦式精米装置を改良しました。そして、精米効率は落ちるようですが、亜糊粉層を残すことができるようになりました。

この少しずつ削れる摩擦式精米装置では、玄米に胚芽部分を残すことができます。しかも、胚芽のうち口当たりの悪い外側を削って柔らかい部分だけを残すことができます。

 

仕上げに「亜糊粉層+胚芽の柔らかい部分を残した米」の肌糠を取り除いて無洗米にします。無洗米にしないと、米を研ぐ際に亜糊粉層や胚芽が取れてしまう場合があるそうです。

上記技術により他社が真似できない商品「金芽米」が生み出されました。最近ではタニタ食堂とコラボして「タニタ食堂金芽米」を販売するなど、技術だけでなくプロモーションにも注目したい商品です。

 

ところで、この文献では

オリンピック的に評価すると、亜糊粉細胞層5は『金層』であり、澱粉細胞層6の第1層6’が『銀層』であり、その第2層6’’が『銅層』ということになる。

といった独特の記述があります。『オリンピック的に評価すると~』とか全く無意味な記載です。しかし発明者のこだわりを感じます。特許文献は事務的な技術書類ですが、こういった人間味が滲み出てる記述に出会うとほっこりしますね。まあ、担当業務にがっつり関わる他社の特許で見つけるとイラッとしますけど。。

 

【特許番号】

P4708059

【名称】

旨み成分と栄養成分を保持した無洗米

【特許権者】

株式会社東洋精米機製作所(東洋ライス)

【課題】

白米でありながら旨み成分と栄養成分を保持した無洗米と、その製造方法及びその製造装置を提供する

【請求項】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、精米機による搗精により、表層部から糊粉細胞層(4)までを除去し、該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、且つ搗精後の米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』を残し、更に前記精米機による搗精後に、無洗米機(21)に供給し、該無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみを分離除去したことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。