食品特許を読みあさろう

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日清製粉「コツのいらない天ぷら粉」 湿熱処理小麦粉で天ぷらをサクサクに揚げる

日清製粉の「コツのいらない天ぷら粉」についての特許です。小麦粉に湿熱処理をしてグルテンを変性させているので、テキトーに作ってもサクサクした天ぷらを揚げることができます。

前回、家庭用の揚げもの用ミックス粉市場の最先端というべき「レンジでチンする唐揚げ粉」の特許を紹介しました。今回は同市場を切り拓いたパイオニア「コツのいらない天ぷら粉」の特許について紹介します。

そもそも家庭で揚げる天ぷらは、家庭に常備している小麦粉や卵、水などをちゃちゃっと混ぜて作るおてがるメニューでした。ところが、時がたつにつれおてがるメニューではなくなります。理由は、大きく次の2つと考えられます。

  1. 外食の機会やTVなどのメディアの影響により、専門店と家庭の天ぷらに差があることが認知された。これにより、家庭でもプロが作ったようなカラッとサクッとした天ぷらを作りたい、食べたい、というニーズが高まった。
  2. 外食や総菜・冷凍食品の普及、女性の社会進出等で家庭での調理機会が減った。これにより、家庭の調理スキルが低下し、以前よりも家庭で作られる天ぷらのレベルが下がった。

この2つの要因により、家庭の天ぷらの理想と現実の差が大きくなっていました。

日清製粉はそこに目を付けて、誰でも簡単に美味しい天ぷらを揚げることができる商品を投入したのでしょう。

 

ところで、家庭で小麦粉を使って、天ぷらがカラッと揚げることができないのはなぜでしょうか?

発明者は、天ぷらのサクッとした食感を損なう主な原因として、小麦粉のグルテン形成に着目しました。

グルテンは小麦粉に含まれるタンパク質で、小麦粉に水を加えて練るとグルテン同士が結び付いて粘りを生じます。パンでは噛みごたえやモチモチ感に寄与しています。以前に紹介した「超熟」の製法で、長時間寝かせているのはグルテン形成を進める為です。

ところが、天ぷらの場合にはグルテンの粘りがサクサク感を損ねてしまいます。そのため、天ぷらにはグルテンの少ない薄力粉を使う、水を加えた生地をあまり混ぜず氷水で冷やす、などグルテンが形成しないようにする"コツ"が必要でした。

 

そこで発明者は、小麦粉を湿熱処理することであらかじめグルテンを変性させました。この湿熱処理小麦粉は、水を加えて練ってもあまりグルテンを形成しません。だから生地を混ぜすぎても、氷水で冷やさなくても、コツなく天ぷらを作ることができます。

実際の商品では、この小麦粉に、糖類・大豆たんぱく・乾燥卵白・澱粉・加工澱粉などを加えることで、さらにサクサクの食感に仕上がるように工夫しているようです。

 

コツのいらない天ぷら粉のヒットにより、揚げ物用ミックス粉のニーズが広く顕在化し、市場が切り拓かれました。技術的な観点では、湿熱処理小麦粉の有用性を知らしめ、様々な用途の物理処理した穀粉・澱粉類の発展に寄与したと言えます。

食品開発者、技術者として、このような製品を開発したいと思う次第です。

 

【特許番号】

P3153424

【名称】

揚げ物用熱処理小麦粉及びその製造法

【特許権者】

日清製粉株式会社

【課題】

より歯もろく、サクサクした食感の揚げ衣を得る

【請求項】

1)含有澱粉が実質的にα化されておらず、しかもグルテン・バイタリティが未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに90~98で、かつグルテン膨潤度が未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに105~155となるように熱処理してなる、揚げ物用熱処理小麦粉。

2)飽和水蒸気が導入された加圧状態の密閉系高速攪拌機中に小麦粉を導入し、周速度5~20m/秒、滞留時間2~20秒間の条件で湿熱処理して該小麦粉の品温が65~80℃になるようにしたことを特徴とする揚げ物用熱処理小麦粉の製造法。