ヤマザキ「超芳醇」 「超熟」の特許をいかに回避したか?
敷島製パンの大ヒット「超熟」に負けじと追随した、山崎製パンの「超芳醇」についての特許です。
前回、湯種法で造られたパン「超熟」の特許を紹介しました。今回紹介する山崎製パンの「超芳醇」の製法は、敷島製パンの「超熟」の製法と基本的には同じものです。山崎パンが敷島製パンの特許の穴を上手くついた、と言えます。
敷島製パン「超熟」の特許には次の条件が必須となっています。
- 小麦粉に70℃以上の熱水を加えてこねる。
- 低温で熟成させる。
山崎パンの特許では、70℃以上の熱水を加えず次の通りにしています。
- 小麦粉に40~65℃の温水を加える
- 温水を加えた生地に加温して55~70℃にしてこねる
- 低温で熟成させる。
敷島製パンの製法でも、本当に大事なのは55~70℃の生地をこねることです。70℃以上の熱水を加えることはその手段の1つです。しかし、特許の範囲を「70℃以上の熱水を加えてこねる」ことにしてしまいました。山崎パンはこの穴をついて「40~65℃の温水を加えてから加温して55~70℃にしてこねる」ことにしたのです。
画期的な発明を思いついた時、開発者はアドレナリン出まくりでウヒョー、ってな状態になったりします。当然です。誰も成功したことのないことに挑んで成功したのですから。そりゃもう本当に嬉しいんです。しかし、特許出願の準備をする際には冷静になる必要があります。
食品の発明は、ローテクの使い方や組み合わせ方が巧い、という「コロンブスの卵」である場合がほとんどです。後発の参入が容易な場合が多いのです。発明者が「最高の手段!」と思った発明でも冷静な目で見れば代替手段や抜け穴があるかもしれません。特許取得の目的は、他社を排除することなので、「発明として最高の方法」を特許にするのではなく「他社を排除するのに最高の方法」を特許にすることに頭を切り替える必要があります。すごく難しいことですが。。
後からアレコレということは容易いですが、超熟製法は素晴らしい発明なだけに、もっと有効な特許取得ができなかったものかと考えてしまいます。あるいは特許の穴を上手く見つけて、その部分をガッチリと特許にしてしまうヤマザキパンの強さに感心します。
とはいえ、「超熟」の方が「超芳醇」よりも売れているようです。「超熟」は特許以外の点で先行者の利を享受できているようです。
「素晴らしい発明」と「素晴らしい特許」は同じではない、という良い事例だな、と思う次第です。
【特許番号】
P3624894
【名称】
パン類生地及びパン類の製造方法
【特許権者】
【課題】
前記湯捏種を用いたパン類の製造方法において、特に混捏後のパン類生地が過度に柔らかくならず一定の弾力性を有し、過度の粘着性がなくて適度な性状を維持し、機械耐性を有し、焼成したパン類がオーブンスプリングと容積を有し、腰持ちが良く、そして機械的大量製パンにおける焼成パン類の品質が製品間で安定している等品質の向上を図ったパン類の製造方法を提供する
【請求項】
少なくとも全小麦粉量のうち一部の小麦粉と40~65℃の温水とを該温水の温度以上の55~70℃の捏上温度になるまで加温しながら混捏して湯捏種を作成する湯捏種作成工程と、該湯捏種を用いてパン類生地を作成するパン類生地作成工程とを備えたことを特徴とするパン類生地の製造方法。