食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

東洋水産 「マルちゃん正麺」の麺の正体は?

マルちゃん正麺についての特許です。

マルちゃん正麺以前の袋タイプのラーメンは、市場規模が年々小さくなり衰退市場とされていました。主な理由は調理が簡単なカップ麺に顧客を取られてることです。さらに、日本国内では、少子高齢化がますます進み人口が減少しています。袋麺にかぎらず、様々な食品が同様の衰退をたどっています。この衰退は、企業レベルでどうにかできるものではなく「衰退を前提にして施策を考えるべき」というのがある程度の共通認識になっています。マーケティングの教科書を読めば衰退市場では売上を追うのではなく利益の最大化を考えるべき、と書いてあります。こういった状況ですから、袋麺市場の各社は、設備投資をして大型の新製品を出すよりも、合理化を進めてコストダウンしようと考えるのが普通です。

そこにマルちゃん正麺が登場しました。新製法「生麺うまいまま製法」を開発し、麺の美味しさを全面に押し出したプロモーションを行って年間売上200億円の大ヒットを記録しました。常識をくつがえし、食品業界を驚愕させた事件です。

では「生麺うまいまま製法」とはどのような製法なのか、特許から見てみます。

即席めんは大きく3つに分類されます。すなわち①油揚げ麺、②ノンフライ麺、③生タイプ麺です。①油揚げ麺と②ノンフライ麺は、どちらも生麺を蒸して乾燥させたものです。違いは①油揚げ麺は油で揚げることで、②ノンフライ麺は熱風にさらすことで乾燥させている点です。

マルちゃん正麺は一見すると、②ノンフライ麺に見えます。が、実際には生麺を蒸す工程がありません。生めんをそのまま熱風で乾燥させています。これは従来の即席麺ではなく、乾麺の製法と同じです。乾麺は、生麺を50~80℃程度の熱風にさらして乾燥させたものです。蒸す工程がないので澱粉はアルファ化していません。調理時に茹でることで澱粉をアルファ化させて食べます。そのため、即席麺に比べてゆで時間が長くなります。そのかわり、即席めんよりも生麺に近いコシのある食感になります。

発明者は、生麺を130℃程度の熱風で乾燥させました。すると、従来の乾麺よりも湯戻りが早い乾麺が得られました。理由は次の2点です。

1)澱粉の一部が乾燥時の高温によりアルファ化すること。従来のノンフライ麺の蒸し工程に近い効果が得られています。

2)乾燥時に生じた蒸気で麺の内部に空洞が生じ、麺と湯が接する表面積が大きくなったこと。

この高温乾燥にはデメリットもあります。急激に乾燥させるため、乾燥時に麺が割れやすくなります。割れを防ぐために、特許文献に記載されていない製造ノウハウがいろいろあるのではないかと推測できます。

 

さらに、この製法の面白いところは、品質の向上を製造工程の簡略化によって成し遂げてることです。蒸し工程を無くしたことによるコストダウン効果で設備投資を回収できるのかもしれません。コストダウンのための設備投資であれば、「衰退市場ではコストダウン優先」と考える人も説得できます。設備投資の申請が通りやすくなることでしょう。技術者が組織を動かすために参考にしたい手法です。

 

マルちゃん正麺の大ヒットによって、袋めん市場では新たな競争が始まりました。サンヨー食品は「麺の力」、日清食品は「ラ王」を袋麺市場に投入しています。今は「麺の美味しさ」で競っていますが「魅力的な商品があれば袋麺市場はまだ伸びる」ことに各社は気付きました。今後どのような展開になるのか注目していきたいと思います。

 

【特許番号】

P5153964

【名称】

乾麺およびその製造方法

【特許権者】

東洋水産株式会社

【課題】

簡単且つ短時間で良好に調理可能な乾麺およびその製造方法を提供する

【請求項】

麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺。