花王【ヘルシアコーヒー(4)】 苦み成分を除去する
ヘルシアコーヒーの苦味低減方法についての特許です。
体脂肪減少に効果のあるクロロゲン酸は、コーヒー生豆に多く含まれています。しかし熱に弱いため豆を焙煎すると分解されてなくなっていきます。クロロゲン酸を抽出するならコーヒー生豆か、クロロゲン酸が分解され切っていない浅煎りのコーヒー豆を使う必要があります。
生豆を抽出すると、クロロゲン酸は多く含まれますが苦味はありません。が、コーヒーらしい良い香りがありません。クロロゲン酸を多く含んでいてコーヒーと呼べる代物にはなりません。実際、ネスレはコーヒー生豆の抽出液を販売するに際し、「生豆茶」という名前を付けています。
生豆を焙煎すると、コーヒーらしい良い香りが出てきます。同時に苦味も出てきます。この苦味の主成分はクロロゲン酸ラクトンです。また、クロロゲン酸は熱に弱いので、豆を焙煎していくと分解されて減っていきます。そのため、エスプレッソに使用するような深煎り豆にはクロロゲン酸はほとんど含まれていません。さらに、浅煎り豆の苦味成分であるクロロゲン酸ラクトンも分解されます。ですが、深煎りするとビニルカテコールオリゴマー *1など他の苦味成分が生じてくるので、苦味は強まっていきます。
このことから、次の仮説が考えられます。
「浅煎り豆からコーヒーを抽出したものを特定の条件で加熱すれば、クロロゲン酸を維持しつつ、クロロゲン酸ラクトンを分解できるのではないか?」
発明者は、浅煎りコーヒー豆の抽出液のpH、Brixを特定の範囲に調整したうえで、100℃以上に加熱しました。すると、クロロゲン酸を維持しつつに、クロロゲン酸ラクトンが除去されることを見出しました。この技術により、高濃度のクロロゲン酸を含むコーヒーでありながら苦味が抑えられたと考えられます。
ただし、コーヒーの風味はデリケートです。苦味成分を減らすような特殊な製法では、コーヒーの美味しさを維持することが難しいと推測されます。実際、ヘルシアコーヒーを飲んでみましたが、他の缶コーヒーに比べて風味が劣るように思います。特に、香りが決定的に弱いことが特徴的です。
前回の記事で、ヘルシア緑茶は効き目を感じさせるためにわざと苦くしている、と推測しました。ヘルシアコーヒーでも同じく苦味を強くする選択肢があったでしょう。しかし、実際に飲んでみると普通の缶コーヒーよりも苦味が弱いです。なぜ、そのような設計にしたのでしょうか?
あくまで私の憶測ですが、次のように判断したのではないかと推測します。
1)ヘルシアブランドは十分に浸透しているので、苦味で効き目を想起させなくても、効果を感じてもらえる。
2)浅煎り豆を使っているため香りが弱いので、苦味を強めてしまうと不味さが際立つ。ならば、「薄い」と思われても苦味が弱い方が良い。
3)美味しいコーヒーとブレンドすることで美味しくする選択肢もあるが、コスト増に見合う売上は得られない。
その判断が正しかったか、その答えは今後の売れ行き次第です。
このように特許から設計時の意思決定が垣間見えます。これが特許文献を読む楽しさです。
【特許番号】
P5155435
【名称】
焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法
【特許権者】
花王株式会社
【課題】
1)クロロゲン酸類量及び焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味を保持しつつ、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑えた焙煎コーヒー豆抽出物及
びその製造方法を提供する
2)当該焙煎コーヒー豆抽出物を用いたインスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物及び容器詰コーヒー飲料を提供する
【請求項】
次の成分(A)及び(B);
(A)クロロゲン酸類、及び
(B)クロロゲン酸ラクトン類
を含み、
(A)クロロゲン酸類と、(B)クロロゲン酸ラクトン類との質量比(A)/(B)が45~100000であり、
(A)クロロゲン酸類中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量が3~13質量%であり、
Brixが10~40である、焙煎コーヒー豆抽出物。
*1:←ビニルカテコール。これが数分子で重合したものがビニルカテコールオリゴマーです