食品特許を読みあさろう

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旭硝子 逆転の発想で重曹の固結を防ぐ

 炭酸水素ナトリウム粉末を固結しにくくする方法についての特許です。

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炭酸水素ナトリウムは重曹とも呼ばれ、ベーキングパウダーなどに使用される食品添加物です。食品分野以外でも発泡性の入浴剤や、さまざまな医薬品に使用されます。工業的に重要な物質ですが、高温多湿の夏場は固結しやすい性質があります。重曹を買ってきて置いておいたら固まっていた、なんて経験ないでしょうか?

粉末状だと製造現場で扱いやすいのですが、固結して塊になってしまうと扱いづらくなります。場合によっては必要な用途に使用できなくなります。そのため、炭酸水素ナトリウムの固結を防ぐことは産業上の課題となっています。

炭酸水素ナトリウムが固結する原因は、結晶表面にあります。結晶の表面には製造過程で微量の無水炭酸ナトリウム(Na2CO3)、セスキ炭酸ナトリウム(NaH CO3・Na2CO3・2H2O),ウェグシャイダー塩(3NaH CO3・Na2CO3),炭酸ナトリウム1水塩(Na2CO3・H2O),炭酸ナトリウム10水塩(Na2CO3・10H2O)を含みます。温度や湿度の変化があると、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム1水塩、ウェグシャイダー塩、セスキ炭酸ナトリウムが可逆的に変化します。その過程で、結晶粒子間に架橋が形成されて固結します。

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特にウェグシャイダー塩からセスキ炭酸ナトリウムへ変化する際に強い固結が生じるとのことです。この変化には水分子が必要なので、他に吸湿してくれるものがあれば固結しにくくなります。そこで、発明者は炭酸水素ナトリウムの製造時に、結晶を加熱して結晶表面に炭酸ナトリウムを生じさせています。炭酸ナトリウムは、炭酸ナトリウム1水塩やウェグシャイダー塩に変化し、その際に水を吸収します。吸湿剤として作用するのです。そのため、表面に一定の炭酸ナトリウムを含む炭酸水素ナトリウム粒子を密閉しておけば固結を生じさせる化学反応が起こらない、というわけです。

固結の原因となる粒子表面の炭酸ナトリウムを積極的に生じさせ、固結を防止する吸湿剤にしてしまう、というスゴイ発想です。

 

【特許番号】

P5045102

【名称】

固結性の小さい炭酸水素ナトリウム結晶粒子の製造方法

【特許権者】

旭硝子株式会社

【課題】

従来のように、添加によるコスト増加のほかに使用に伴い種々の問題を有する固結防止剤を使用しなくても固結性を防止でき、また、その製造過程において長い処理時間を要することなく、容易にかつ効率的に固結性を低減させることができる、固結性の小さい炭酸水素ナトリウム結晶粒子の新規な製造方法を提供する

【請求項】

相対湿度(%)を横軸(X軸)にし、二酸化炭素ガス濃度(容積%)を縦軸(Y軸)とする図1に示されるグラフにおいて、下記の(1)式により求められる濃度以下の二酸化炭素ガス濃度を有する加熱ガスにより、温度70~95℃において、質量基準の平均粒子径が50~500μmである炭酸水素ナトリウム結晶粒子を加熱処理し、炭酸水素ナトリウム結晶粒子の表面に炭酸ナトリウム無水塩を形成し、その含有量を炭酸水素ナトリウム結晶中、0.03~0.4質量%とすることを特徴とする固結性の小さい炭酸水素ナトリウム結晶粒子の製造方法。

但し、

T(℃)は炭酸水素ナトリウム結晶の温度

R(%)は結晶の温度における、結晶周辺の相対湿度

二酸化炭素ガス濃度の上限は100容積%

(1)式は、二酸化炭素ガス濃度=0.071×e^(0.1×T)×R^(-0.0005×T-0.9574)