食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

キューピー 人工イクラの技術で玉子を造る

キューピー「冷凍やわらかたまご」という商品名で販売されています。この商品は解凍すると形のきれいなポーチドエッグとなり、中の黄身が半熟になっているというものです。中の黄身は、本物の玉子と異なり加熱しすぎても固くならずとろりとした液状を保つことができます。

ここ数年、エッグベネディクトが流行っています。パンの上にポーチドエッグを乗せてオランデーズソースをかけた料理です。パンケーキなどの"豪華な朝食"ブームからの流れで提供するお店が増えたようです。エッグベネディクトを提供するためにはポーチドエッグを作る必要があります。ポーチドエッグとは熱湯の中に卵を割り入れて半熟状に茹でたものです。簡単な卵料理ですが、綺麗な丸型に作るのは意外と難しいものです。ググれば綺麗に作るコツは紹介されていますが、いずれの方法でも手間がかかり、ある程度の熟練が必要になります。家庭で少量作るならともかく、飲食店での大量調理や注文への即時対応が難しいといえます。

そこで、発明者はポーチドエッグそっくりの疑似玉子を造りました。その方法は人工イクラと同じく、アルギン酸がカルシウムイオン存在下でゲルになる、という性質を利用しています。すなわち、アルギン酸入りの疑似白身を塩化カルシウム水溶液の中に放出すると同時に、疑似白身の中に疑似半熟卵黄を放出するという方法です。アルギン酸入りの疑似白身はカルシウムイオンが浸透していくに従い、茹で卵の白身のように弾力を持ったゲルになります。疑似半熟卵黄はアルギン酸を含まないので固まりません。こうして造られた疑似ポーチドエッグを冷凍したものが「冷凍やわらかたまご」という商品です。

実際に購入してみましたが、すごくよくできています。本物のポーチドエッグと見分けがつかないほどではありませんが、たっぷりのオランデーズソースをかけてエッグベネディクトとして提供されれば、気付かれないかもしれません。
また単に玉子そっくりなだけではありません。中に入っている半熟状の卵黄は加熱しても固まりません。そのおかげで、グラタンに入れて焼成したり、メンチカツ(スコッチエッグ)に入れて油で揚げたり、様々な用途で加熱時間を気にせず調理しても、とろーり半熟の黄身を保つことができます。この点では本物以上を実現した技術と言えます。

キューピー社は一般のイメージではマヨネーズの会社ですが、業界では業務用の提案営業に優れた企業としても知られています。飲食店のニーズを把握し、問題解決ができる商品や技術を提案する能力が高いとされています。「冷凍やわらかたまご」を開発できたのは、ポーチドエッグを調理するための煩雑なオペレーションの解決しようと考えたからでしょう。普通なら安価な素材である鶏卵を人工イクラの技術で模造しようとは考えません。キューピー社は技術力の高さにも定評がありますが、多々特許文献を見るにニーズ把握力の高さが技術を育てている大きな要因だと感じます。おおいに見習いたいものです。

【特許番号】
P4251930
【名称】
ポーチドエッグ様食品の製造方法
特許権者】
キユーピー株式会社、株式会社カナエフーズ (キューピー100%子会社)
【課題】
大量生産が可能であり、耐冷凍性を付与できるため長期保存でき、かつ、卵白及び卵黄自体に均一な味付けが可能である新規な食品として、今までのポーチドエッグに代わるポーチドエッグ様食品及びその製造方法を提供しようとするものである
【請求項】
0.3~3%濃度の塩化カルシウム溶液中に卵白液に対して0.3~3%のアルギン酸ナトリウムを含む卵1個分の卵白液を二重管状ノズルの外側ノズルから放出するとともに内側ノズルから卵1個分の卵黄液を前記放出卵白液中へ放出することにより、前記塩化カルシウム溶液中で表層の卵白液を化学的にゲル化し、該ゲル化卵白で卵黄液を包容することを特徴とするポーチドエッグ様食品の製造方法。