食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

広島県 凍結含浸法でやわらか介護食

介護食、病院食への利用で話題の凍結含浸法に関する特許です。ペクチナーゼを食材の内部に浸透させて作用させることで、野菜を噛まなくても歯茎で潰せる柔らかさにすることができます。

凍結含浸法の原理

 画像引用:凍結含浸法の技術解説(広島県)

食べ物を噛む力が弱くなってしまった方への食品として、ミキサーでピュレ状にしたもの、お粥のようにドロドロに煮込んだもの、それらをゲル化剤でゼリーにしたものなどが利用されています。栄養摂取という観点からは問題がないものの、食生活の楽しさといったQOLの観点では問題がありました。そこで開発されたのが凍結含浸法を利用して軟化させた野菜です。見た目は普通の野菜の煮物と同じでありながら、ペクチンが分解されているため舌や歯茎で潰せるほど柔らかくなっています。見た目が良いことは、食事の楽しさに重要な要素であり、従来にない優れた介護食、病院食として期待されます。この凍結含浸法は3つの技術の組合わせで成り立っています。

1)野菜を冷凍することで、組織を破壊して調味液が内部まで浸み込む隙間を作る。
2)凍結でできた組織の隙間に調味液が浸み込むよう減圧する。
3)内部に浸透した調味液に入っているペクチナーゼ等の酵素が野菜を軟化させる。

それぞれ個別には従来から知られている方法です。真新しいところはありません。
ですが、それを3つ組合わせたことで画期的な技術になっているのです。

この組合わせのすごいのは、「野菜を柔らかくする」という技術課題が解決されているだけではない、ということです。
事業面での課題も解決されているのです。この分野の食品の開発者、技術者ならば
「既存の設備にプラス数十万の設備投資すれば小ロットで生産が始められる!」
「加工賃は売価で十分吸収できる程度だ!」
といった事業面での実現性の高さに感心するのではないでしょうか?

【特許番号】
P3686912
【名称】
植物組織への酵素急速導入法
特許権者】
広島県
【課題】
従来の植物食品素材に酵素を内部に導入する方法には拡散や吸着といった作用を利用している。
これらの作用は緩慢で,加熱などのゆるやかな条件で内部に浸透させるには長時間を要する。
また,酵素は熱によって不活性化するため加熱できない。
本発明は,凍結作用で植物食品素材内部に氷結晶を生成させ,組織を軟化させ,内部空隙に存在する気体と外部溶液中の酵素とを置換させやすくする。
その後,減圧下に放置することによって,5分間~60分間以内に急速に内部気体と酵素とを置換させる。
この場合,植物食品素材を切断する必要はかならずしもない。
また,解凍に必要な加温だけで,加熱する必要はなく,ゆるやかな条件で酵素を導入できる。
また,導入する酵素は低濃度から高濃度の範囲まで利用範囲は広い。
【請求項】
生あるいは加熱した植物食品素材を凍結,解凍後,減圧下で導入したい成分を含む液体に浸漬する植物食品素材の含浸処理方法において,植物組織内で植物崩壊酵素による酵素反応を作用させ,元の形状を維持したまま硬さを変化させるための植物組織への酵素急速導入法であって,前記植物食品素材を凍結した後,解凍し,少なくともペクチナーゼの活性を有する酵素液に浸漬して減圧下に5~60分間保持することにより,硬さの変化を制御するようにしたこと特徴とする植物組織への酵素急速導入法。