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食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

キューピー 人工イクラの技術で玉子を造る

キューピー「冷凍やわらかたまご」という商品名で販売されています。この商品は解凍すると形のきれいなポーチドエッグとなり、中の黄身が半熟になっているというものです。中の黄身は、本物の玉子と異なり加熱しすぎても固くならずとろりとした液状を保つことができます。

ここ数年、エッグベネディクトが流行っています。パンの上にポーチドエッグを乗せてオランデーズソースをかけた料理です。パンケーキなどの"豪華な朝食"ブームからの流れで提供するお店が増えたようです。エッグベネディクトを提供するためにはポーチドエッグを作る必要があります。ポーチドエッグとは熱湯の中に卵を割り入れて半熟状に茹でたものです。簡単な卵料理ですが、綺麗な丸型に作るのは意外と難しいものです。ググれば綺麗に作るコツは紹介されていますが、いずれの方法でも手間がかかり、ある程度の熟練が必要になります。家庭で少量作るならともかく、飲食店での大量調理や注文への即時対応が難しいといえます。

そこで、発明者はポーチドエッグそっくりの疑似玉子を造りました。その方法は人工イクラと同じく、アルギン酸がカルシウムイオン存在下でゲルになる、という性質を利用しています。すなわち、アルギン酸入りの疑似白身を塩化カルシウム水溶液の中に放出すると同時に、疑似白身の中に疑似半熟卵黄を放出するという方法です。アルギン酸入りの疑似白身はカルシウムイオンが浸透していくに従い、茹で卵の白身のように弾力を持ったゲルになります。疑似半熟卵黄はアルギン酸を含まないので固まりません。こうして造られた疑似ポーチドエッグを冷凍したものが「冷凍やわらかたまご」という商品です。

実際に購入してみましたが、すごくよくできています。本物のポーチドエッグと見分けがつかないほどではありませんが、たっぷりのオランデーズソースをかけてエッグベネディクトとして提供されれば、気付かれないかもしれません。
また単に玉子そっくりなだけではありません。中に入っている半熟状の卵黄は加熱しても固まりません。そのおかげで、グラタンに入れて焼成したり、メンチカツ(スコッチエッグ)に入れて油で揚げたり、様々な用途で加熱時間を気にせず調理しても、とろーり半熟の黄身を保つことができます。この点では本物以上を実現した技術と言えます。

キューピー社は一般のイメージではマヨネーズの会社ですが、業界では業務用の提案営業に優れた企業としても知られています。飲食店のニーズを把握し、問題解決ができる商品や技術を提案する能力が高いとされています。「冷凍やわらかたまご」を開発できたのは、ポーチドエッグを調理するための煩雑なオペレーションの解決しようと考えたからでしょう。普通なら安価な素材である鶏卵を人工イクラの技術で模造しようとは考えません。キューピー社は技術力の高さにも定評がありますが、多々特許文献を見るにニーズ把握力の高さが技術を育てている大きな要因だと感じます。おおいに見習いたいものです。

【特許番号】
P4251930
【名称】
ポーチドエッグ様食品の製造方法
特許権者】
キユーピー株式会社、株式会社カナエフーズ (キューピー100%子会社)
【課題】
大量生産が可能であり、耐冷凍性を付与できるため長期保存でき、かつ、卵白及び卵黄自体に均一な味付けが可能である新規な食品として、今までのポーチドエッグに代わるポーチドエッグ様食品及びその製造方法を提供しようとするものである
【請求項】
0.3~3%濃度の塩化カルシウム溶液中に卵白液に対して0.3~3%のアルギン酸ナトリウムを含む卵1個分の卵白液を二重管状ノズルの外側ノズルから放出するとともに内側ノズルから卵1個分の卵黄液を前記放出卵白液中へ放出することにより、前記塩化カルシウム溶液中で表層の卵白液を化学的にゲル化し、該ゲル化卵白で卵黄液を包容することを特徴とするポーチドエッグ様食品の製造方法。

ゴキブリがどこで混入したかを推定する技術

ペヤングのニュースがテレビやインターネットを騒がせています。とうとう商品の全回収、生産停止、という事態に至りました。食品業界において後世まで残る大きな事例となることでしょう。

ペヤング関連の報道のなかで、まるか食品はゴキブリが混入した商品を回収して外部検査機関で検査したとあります。混入時期の推定を行ったとのことです。
では、一体どのような検査をすると昆虫の混入時期を推定することができるのでしょうか?そこで、昆虫異物関連の特許文献を紹介します。

昆虫の混入時期の推定方法は?

昆虫異物の混入時期推定の方法は、特許文献では次の3つの方法に分けられます。
1)酵素活性の変化

例(特開2003-169698):加熱により昆虫のカタラーゼが失活する。酵素活性の有無で加熱の有無を推定できる。
⇒ゴキブリが加熱されていればカタラーゼが失活している。混入時期が麺のフライ工程を以前か以後かを判定できる。

例(特開平10-253611):未加熱の昆虫ではアセチルコリンエステラーゼが経過日数で活性が徐々に低下していく。酵素活性の程度を測定すれば死後経過時間が推定できる。
⇒ゴキブリがフライ工程後に混入していればコリンエステラーゼ活性が残っている。この酵素活性が製造日からの経過日数から推定される程度であれば、フライ工程後の製造工程で混入した可能性が高い。酵素化性が高すぎれば、開封後に混入した可能性が高い。

2)昆虫構成成分の残存量の変化を測定する

例(特許第4194089):炭酸飲料のような加圧食品中で、加圧されることで昆虫の構成成分(色素など)が体内から溶出する。構成成分の体内残存量から加圧の有無を推定できる。
⇒加圧の有無で判定する方法なので、カップ焼きそばの異物では混入時期を判定できない。

3)食品成分の昆虫体内への浸透を測定する

例(特許第4267987):食品成分が昆虫体内にどの程度浸透するかは熱履歴、経過時間によって異なる。食品成分の浸透程度を測定することで加熱の有無または未加熱でも混入からの経過時間を推定できる。
⇒麺と共にフライされていれば昆虫内に揚げ油が浸透している。混入時期が麺のフライ工程を以前か以後かを判定できる。また、開封後に麺とは別に油揚げしたゴキブリが混入したとしても油の種類やその浸透度合いの違いでフライ工程での混入か否かを判定できる。 

上に挙げた以外にも混入時期の推定方法はあるかと思います。
ともかく、ペヤングのゴキブリは何らかの推定方法によって、加熱の有無または死後経過日数が判別されたのでしょう。
混入した写真のゴキブリは麺と絡まっていたので、おそらく油揚げで加熱されたのでしょう。それが外部機関の検査ではっきりしたのだと推測します。だからこそ回収や製造停止という措置に踏み切ったのではないでしょうか?

上記のような異物混入時期の判定方法は、各メーカーによってさまざま開発されています。昆虫に限らず、プラスチックや毛髪などなどそれぞれにあわせた判定方法があるのです。いつ異物が混入したかを分析によって知ることで、混入の原因を究明し再発防止につなげることができます。各社に進捗の差はあるでしょうけれど、これからも地道にやってくしかないですね。

日立造船 デジタル技術の進化は、ちりめんじゃこからフグを取り除く

日立造船による画像処理技術を駆使した異物選別機についての特許です。

先日、大分県のスーパーで販売されていた豆アジに毒のあるクサフグが混入していたとしてニュースになりました。その後、横浜市のスーパーでも同様に豆アジに有毒のシロサバフグの混入する問題が発生しました。
このような混入はなぜ起こるのでしょうか?

農産物、水産物のような天産物は収穫時点では様々な異物が混入しています。
例えば、アジを漁獲したからといってアジだけが網に入っているわけではなく様々な種類の魚介類、海藻、石などが混入しています。ですので、消費者に届く前に漁港、卸、小売など流通の過程で選別が行われ異物が取り除かれているのです。

また、当然のことですが選別にはコストがかかります。
豆アジのように小さい魚は大きな魚より選別の手間=コストがかかります。しかし、雑魚であり高い値段では売れません。そうすると選別の精度を上げるのは難しく、稀にアジ以外の魚が混ざることは十分考えられます。これが豆アジにフグが混入した状態で販売された理由だと考えられます。

 

では、豆アジよりもさらに選別が難しい魚ではどうなるのでしょうか?
昔から認識されていた問題なのですが、イワシの稚魚(ちりめんじゃこ、しらす)にフグの稚魚が混ざる、ということがあります。
シラスに混入したフグを完全に除去するのは現実的なコストで至難の業です。人間の手作業では不可能と言えるかもしれません。

 

しかし、先日、ちりめんじゃこに混入したフグをほぼ100%取り除く装置を日立造船が発売する、という発表がありました。そこでどのような方法で選別を行っているのか、特許文献を確認してみました。

行っているのは光学選別(画像選別)という方法です。
ちりめんじゃこをコンベア状に薄く広げてカメラで検出し、大きさ、形状、色彩といった画像データを抽出します。そしてあらかじめ設定した基準から外れたものに圧縮空気を吹き付けるなどの方法でラインアウトさせます。
この方法は、画像処理の速度と精度がカギになると考えられます。ということは食品企業が自社開発するのは困難であり、日立の高い技術力が活かされていると推測します。

最近のちりめんじゃこには、イワシ以外の"混ざりもの"が少なくなっています。その理由は、光学選別技術の発展だと言えます。フグの稚魚を取り除く技術もその延長線上にあります。デジタル画像処理技術の発展は、ちりめんじゃこにまで影響を及ぼしているわけです。ちりめんじゃこを食べるときには、科学の進歩に思いを巡らせたいと思う次第です。

【特許番号】
P5455409
【名称】
異物選別方法および異物選別設備
特許権者】
日立造船株式会社
【課題】
ほぼ同一形状で被選別物の種類が2つである場合にはより確実に選別することができるが、例えば干した小魚と、この小魚に混入している貝殻、木片、プラスチック片などのように、形状が不揃いで且つ色が異なるものを、より確実に選別するのが難しいという問題がある。
本発明は、形状が不揃いで且つ色が異なるもの同士を、より確実に、選別し得る食品における異物選別方法および異物選別設備を提供することを目的とする。
【請求項1】
搬送経路上を搬送される選別対象物体に含まれている異物を選別する方法であって、
搬送経路を撮影し得るカメラ装置で撮影された画像データから色彩情報に基づき物体を抽出し、
この抽出された物体の画像データにおける少なくとも面積・長さなどの大きさを表わす計量的特徴量に基づき物体が異物であるか否かを判断し、
異物でないと判断された残りの物体の画像データから選別対象物体であると判断し得る色彩的特徴量を抽出し、この色彩的特徴量に基づき異物であるか否かを判断し、
異物でないと判断された残りの物体の画像データから選別対象物体であると判断し得る丸さ・細長さなどの形状を表わす形状的特徴量を抽出し、
この形状的特徴量に基づき異物であるか否かを判断するようにした第1異物判断機能に、
さらに、搬送経路を撮影し得るカメラ装置で撮影された画像データの輝度情報に基づき物体を抽出し、
この抽出された物体の画像データにおける少なくとも面積・長さなどの大きさを表わす計量的特徴量に基づき物体が異物であるか否かを判断し、
異物でないと判断された残りの物体の画像データから選別対象物体であると判断し得る丸さ・細長さなどの
形状を表わす形状的特徴量を抽出し、この形状的特徴量に基づき異物であるか否かを判断するようにした第2異物判断機能を付加し、
且つ上記各異物判断機能部にて、異物であると判断された物体を、搬送経路上から除去することを特徴とする異物選別方法。

味の素 訴訟になったアスパルテーム

味の素のパルスイートなどに使用されている人工甘味料アスパルテームに関する特許についてです。発明は誰のものか?を考えるうえで興味深い特許です。

2014年のノーベル物理学賞青色LEDに関して天野氏、赤崎氏、中村氏の3名が受賞しました。中村氏に関しては、2001年に発明当時勤めていた日亜化学に対し発明の対価を求めて訴訟を起こした件があらためて話題になりました。

このいわゆる青色LED訴訟は食品メーカーにも影響を与えました。
2002年に味の素の元従業員である成瀬昌芳氏がアスパルテームの製造方法に関する特許について、味の素に発明の対価20億円を求めて訴訟を起こしたのです。裁判の結果、2004年に東京地裁は成瀬氏の発明に対して1億8935万円の支払いを命じる判決を出しました。その後、味の素が控訴し、高裁の和解勧告を受けて味と素が1億5千万円の支払うことで和解しました。
この和解金額1億5千万円が高いか安いかはここでは論じません。ただ私自身は食品メーカーで発明をする立場でして、「1億円!」という金額に夢があるなぁと思います。

<参考>
東京地裁での判決pdf←長文ですがめちゃくちゃ面白いです。

味の素社の見解

 「発明の対価は誰のものか?」はさておき、アスパルテームの特許が数百億円の利益を生み出す原動力になったことは間違いありません。せっかくなので、その内容を確かめてみましょう。

Aspartame

アスパルテームは、アスパラギン酸とフェニルアラニンのメチルエステルが結合したペプチドです。この化合物は1965年にアメリカのサール社の化学者が発見しました。そして新たな甘味料として1983年にアメリカFDAで認可され、食品に使用できるようなったのです。
しかし、アスパルテームを工業的に大量生産する方法が確立されておらず、普及させることはできませんでした。大きな課題となったのは、アスパルテームの結晶を効率よく取りだすのが難しいという点でした。青色発光ダイオードも実用化の難点は結晶化でした。結晶化が様々な産業で課題になることがわかりますね。

 

味の素社はアスパルテーム結晶の工業的な製造方法の確立に取り組みました。
通常、純度の高い結晶を造るには、粗製品を水や有機溶媒に再度溶解して撹拌しながら減圧などで溶媒を気化させて溶液の濃度を高めて結晶が生じさせます。そして、結晶を遠心分離などで取りだすという方法を使います。
この通常の方法でアスパルテームは撹拌しながら濃度を上げていくと、微細な針状の結晶を生じます。しかし、この微細な結晶を取り出そうと遠心分離をして水を分離していくとケーク状の塊となって固着し50%程度しか水を分離できなくなってしまいます。このケークを乾燥すると水分量が高すぎて乾燥負荷が高く、かつ得られる乾燥粉体は嵩高くなり取扱いが非常に困難です。
このような場合、一般的には結晶を造る際に低濃度・低冷却速度で徐々に結晶を成長させることで粒の大きな結晶を得ることができます。粒の大きな結晶であれば、水分の分離や乾燥が容易です。しかし、アスパルテームはゆっくりと結晶を成長させると、針状結晶の長軸方向ばかりが成長し、望ましい形状の結晶を得ることはできません。

発明者の成瀬氏は、結晶化の過程で通常行われる「撹拌」を行わず、静置したまま結晶化させました。すると、撹拌した場合と同様にケーク状の塊が得られるのですが、遠心分子してみると水の分離が非常に良いということが分かりました。こうして得られた結晶を観察したところ微細な針上の結晶が束を成すことで、見掛け上は大きな結晶のような構造をとることが分かりました。この束状結晶は強固で操作しやすく、工業的に扱うのに適していたのです。

この発見がもとになり国内外で複数の特許が成立しました。味の素社は製造方法の特許をアスパルテームの生みの親であるサール社にライセンスして収入を得るなど10年で約80億円の利益を得ました。また、現在でも味の素社はアスパルテームの世界シェアで40%程度を持ち、大きな事業となっています。

しばしば「潜在的なニーズを掘り起こせ」と言われます。一面では正しいと思います。しかし、忘れてはいけないのは「顕在化しているけど、技術的に実現できずに満たされていないニーズ」を技術的に解決して実現するのも重要だ、ということです。アスパルテームの製造方法は後者です。そして、莫大な利益を生み出しました。私もいち研究員として、骨太な技術開発で大きな利益を生み出すとともに世の中に役立ちたいと思う次第です。

 

【特許番号】
P1790606
【名称】
L-α-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステルの晶析法
特許権者】
味の素
【要約】
本発明はAPM(L-α-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル)の水性溶液よりこれを冷却晶析するにあたつて、晶析過程のごく初期にあつては自然対流伝熱、以後は伝導伝熱支配の下に可及的速かな冷却を可能ならしめる晶析条件または晶析装置を用いて上記水溶液を冷却して大粒径のAPM束状集合晶を取得することを特徴とするもので、本発明によれば、製品の固液分離性ならびに乾燥後の粉体特性を改善でき、各工程における作業性の著しい向上を図ることができるので、本発明は、経済的にも格段に有利なAPM晶析プロセスを提供するものである。
【請求項】
L-α-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステルの水性溶液よりこれを冷却晶析するにあたつて、冷却後の析出固相が存在する溶媒1lに対して約10g以上となるよう初期濃度を設定し、溶液全体を見掛け上氷菓(シヤーベツト)状の疑似固相となるように、機械的撹拌等の強制流動を与えることなく、伝導伝熱により冷却し、疑似固相を生成せしめることを特徴とするL-α-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステルの晶析法。

広島県 凍結含浸法でやわらか介護食

介護食、病院食への利用で話題の凍結含浸法に関する特許です。ペクチナーゼを食材の内部に浸透させて作用させることで、野菜を噛まなくても歯茎で潰せる柔らかさにすることができます。

凍結含浸法の原理

 画像引用:凍結含浸法の技術解説(広島県)

食べ物を噛む力が弱くなってしまった方への食品として、ミキサーでピュレ状にしたもの、お粥のようにドロドロに煮込んだもの、それらをゲル化剤でゼリーにしたものなどが利用されています。栄養摂取という観点からは問題がないものの、食生活の楽しさといったQOLの観点では問題がありました。そこで開発されたのが凍結含浸法を利用して軟化させた野菜です。見た目は普通の野菜の煮物と同じでありながら、ペクチンが分解されているため舌や歯茎で潰せるほど柔らかくなっています。見た目が良いことは、食事の楽しさに重要な要素であり、従来にない優れた介護食、病院食として期待されます。この凍結含浸法は3つの技術の組合わせで成り立っています。

1)野菜を冷凍することで、組織を破壊して調味液が内部まで浸み込む隙間を作る。
2)凍結でできた組織の隙間に調味液が浸み込むよう減圧する。
3)内部に浸透した調味液に入っているペクチナーゼ等の酵素が野菜を軟化させる。

それぞれ個別には従来から知られている方法です。真新しいところはありません。
ですが、それを3つ組合わせたことで画期的な技術になっているのです。

この組合わせのすごいのは、「野菜を柔らかくする」という技術課題が解決されているだけではない、ということです。
事業面での課題も解決されているのです。この分野の食品の開発者、技術者ならば
「既存の設備にプラス数十万の設備投資すれば小ロットで生産が始められる!」
「加工賃は売価で十分吸収できる程度だ!」
といった事業面での実現性の高さに感心するのではないでしょうか?

【特許番号】
P3686912
【名称】
植物組織への酵素急速導入法
特許権者】
広島県
【課題】
従来の植物食品素材に酵素を内部に導入する方法には拡散や吸着といった作用を利用している。
これらの作用は緩慢で,加熱などのゆるやかな条件で内部に浸透させるには長時間を要する。
また,酵素は熱によって不活性化するため加熱できない。
本発明は,凍結作用で植物食品素材内部に氷結晶を生成させ,組織を軟化させ,内部空隙に存在する気体と外部溶液中の酵素とを置換させやすくする。
その後,減圧下に放置することによって,5分間~60分間以内に急速に内部気体と酵素とを置換させる。
この場合,植物食品素材を切断する必要はかならずしもない。
また,解凍に必要な加温だけで,加熱する必要はなく,ゆるやかな条件で酵素を導入できる。
また,導入する酵素は低濃度から高濃度の範囲まで利用範囲は広い。
【請求項】
生あるいは加熱した植物食品素材を凍結,解凍後,減圧下で導入したい成分を含む液体に浸漬する植物食品素材の含浸処理方法において,植物組織内で植物崩壊酵素による酵素反応を作用させ,元の形状を維持したまま硬さを変化させるための植物組織への酵素急速導入法であって,前記植物食品素材を凍結した後,解凍し,少なくともペクチナーゼの活性を有する酵素液に浸漬して減圧下に5~60分間保持することにより,硬さの変化を制御するようにしたこと特徴とする植物組織への酵素急速導入法。

ニッスイ 唐辛子でダイエットに成功したブリ

養殖ブリに唐辛子を食べさせることで、体脂肪を減らすことができる養殖方法に関する特許です。写真のブリはニッスイが養殖している黒瀬ブリです。

 

魚にはマグロのような赤身、タイのような白身があります。では、ブリは赤身でしょうか?白身でしょうか?
これはなかなか難しい問題です。天然のブリの身は赤く、養殖ブリでは白くなります。
なぜでしょうか?原因は次の2つです。


1)養殖ブリでは運動量がすくないため、筋肉中の赤い色素ミオグロビンの量が少ない。
2)養殖ブリでは餌をたくさん食べているため、脂肪がたっぷりついて白くなる。

この違いを知っていれば、養殖ブリと天然ブリの切り身を見分けることができます。

外観だけでなく、養殖と天然で味わいも異なります。養殖ブリでは脂の味が強く、また餌由来と思われる特有のにおいがあります。
養殖ブリの脂っぽさが好まれる場合もありますが、脂が乗りすぎていることが敬遠される場合もあります。ですから、養殖業者は売価を高くするために、生簀の大きさや設置する場所、餌の量や種類など様々な努力をしているのです。

発明者は、出荷の近い大きく育った養殖ブリの餌にトウガラシを入れました。すると、ブリの体脂肪を減らることができる、という発見しました。体脂肪が減ったのは、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンが作用しているものと推測されます。

人間だけでなく養殖魚もダイエット食品を食べている、という事実はなかなか面白いものです。人間用の機能素材を別の動物に用途を広げる、逆に動物用の機能素材を人間用に用途を広げる、という発想で面白いものが開発できるかもしれません。視野を広く持ちたいものです。


【特許番号】
P3895133
【名称】
養殖魚の肉質改善法
特許権者】
日本水産株式会社
【課題】
養殖魚は必要以上に脂がのりすぎていることが食味を落としている一因とされている。
また、養殖魚は天然魚と比較して腹腔に多量の脂肪を蓄積しているため、体重に対する内臓の重量比が高く可食部の歩留まりが低い。
【請求項】
養殖魚ブリに養殖魚ブリが摂取する飼料量100重量部につき0.1重量部の量のカプサイシンを主成分とするトウガラシよりなる肉質改善剤を与えることを特徴とする養殖魚ブリの肉質を適度な脂ののりの肉質に改善する方法。
本発明は、これら養殖魚の問題点を解決し、適度に脂がのった肉質に改善し、しかも可食部の歩留まりを高くする養殖魚の肉質改善法を提供するものである。

アスコルバイオ 酸化で減衰しないビタミンC

安定型ビタミンC誘導体に関する特許です。岡山大学名誉教授の山本氏が発見し、林原社によって量産化されました。

ビタミンCはコラーゲンの構造を作るためにに必須の物質です。不足すると壊血病を引き起こす、人間が生きていくためには摂取することが欠かせない物質です。
ビタミンCはその他にも様々な生理作用を持ちます。例えば、肌の黒ずみの原因であるメラニンの蓄積を抑制する、細胞の抗酸化作用、風邪などの予防、といった効果があるとされています。そのため、多くの健康機能食品や化粧品に使用されています。
また、還元性を持つため食品の酸化防止剤としても広く使用されています。

 

このように様々な用途に使用されるビタミンCですが、還元性の高さゆえ分解されやすいという欠点を持ちます。●●mg配合などと表示してある食品の場合、法律上、賞味期限内は●●mg以上が入っていることを保証しなければなりません。そのため、製造時には●●mgよりも多い量、例えば1.5倍とか多めに配合するのが一般的です。しかし、その商品の成分や製造方法によってビタミンCが分解されやすく含有量が保証できないので●●mg含有ということが表示できないこともあります。
このようにビタミンCの分解されやすさは、大きな課題となっています。

山本氏は、培養細胞を使った実験をしていたそうです。その際に、細胞にビタミンCを毎日与えていたそうです。毎日与えないとビタミンCが分解され、細胞が培養できないからです。そこからの発想がすごいところです。なんとビタミンCの安定型誘導体を作ってしまいました。この誘導体はビタミンCの還元性に関わる水酸基グルコースを結合しているので酸化しません。そして、細胞内の酵素によって徐々にグルコースが離脱してビタミンCになります。そのため、安定型誘導体を培養細胞に一度与えておけば、徐々にビタミンCが供給されます。多くの研究者が培養細胞に毎日ビタミンCを与えなければならない不便さを当たり前の行為と考えていたことでしょう。発明者は当たり前と思わず解決したわけです。
安定型ビタミンC誘導体の用途は、培養細胞の培地だけにとどまりません。食品や化粧品の保存中のビタミンCの減衰を抑制できるだけでなく、ビタミンCが徐々に供給されるという特徴により効能を長続きさせることができます。

 

当たり前のことを当たり前と思わずに解決する、その大切さは耳にタコができるほど聞いたことがあるはずです。しかし、頭でわかっていても実際には容易ではありません。この発明のような具体例をたくさん学んで発想の引き出しを増やしていきたい、と思う次第です。


【特許番号】
P2926412
【名称】
α―グリコシル―L―アスコルビン酸とその製造方法並びに用途
特許権者】
株式会社林原生物化学研究所、山本 格(岡山大学名誉教授、株式会社アスコルバイオ研究所代表取締役
【課題】
 従来のL-アスコルビン酸糖誘導体の欠点を解消し、安定性に優れ、生体内でL-アスコルビン酸の生理活性を充分発揮し、しかも無毒で安心して利用できるL-アスコルビン酸糖誘導体の実現が強く望まれている。
【請求項】
直接還元性を示さないα-グリコシル-L-アスコルビン酸